鯉の芸術と民芸品 / 浮世絵(2)
「大日本物産図会」とは、明治の初期に日本各地の産物や地場産業を紹介するために、日本橋の万屋孫兵衛により刊行されたもので、この作品はその中のひとつです。作品中に解説が書かれていますので、その内容を以下に記載します。
「鯉は上州武州の利根川に多いがなかでも当国の川々のものは佳味である。川中に網を張りまわし、漁者は水中に飛び込み鯉を抱き上げ、左手で鯉の目をおさえて浮き上がりビクへほうり込むのだが、際立った手練である。」(「浮世絵 一竿百趣」金森直治 つり人社p180より引用)
常州(じょうしゅう)とは常陸国(ひたちのくに)の別名で、現在の茨城県に相当します。ちなみに、上州は群馬県、武州は埼玉県~東京都~神奈川県北部です。江戸末期から明治初期のころは、この地ではこうした漁が一般的だったのでしょうが、それにしても見事な大鯉ばかり描かれています。地場産業の紹介図の性質から考えると、現実離れした大鯉を描いているとも考えにくく、実際に3尺クラス(90cmクラス)の鯉もいたのではないかと考えられます。百数十年前、稚魚の放流などないはずですから、それでも一匹づつ抱きとれるほどの魚影の濃さがあったとは、よほど素晴らしい環境だったに違いありません。
大日本物産図会 常州鯉ヲ抱取ル図
出典)「浮世絵 一竿百趣」金森直治 つり人社 p181
参考文献
1)「浮世絵 一竿百趣」 金森直治 つり人社