私が子供の頃は、鯉の料理はわりと日常的にありましたが、現代では食べる人はかなり限られています。川魚料理店などでは今でも鯉料理は健在で、私もそうした店で数種類の鯉料理を食べたことがあります。ここでは、国内外の鯉料理について紹介します。
鯉のあらい
よく刺し身と勘違いされる方がいますが全く違います。鯉の身を薄く切ったものを軽くお湯を通し、すかさず冷水で身を締めます。食感は、ややコリコリしています。
鯉こく
切り身を煮込んで味噌で味付けしたもので、砂糖を隠し味に加えます。川魚は特有の臭みがありますが、味噌は臭みを消してくれますので食べやすくなります。母方の実家で鯉を養殖していましたので、祖母がこの料理を作ってくれた記憶があります。
鯉のうま煮
同居していた父方の祖母は「甘煮」と呼んでいました。切り身を砂糖、醤油、みりんなどで煮込み、照りを出したものです。濃い甘さで臭みを消してくれますので、食べやすく仕上がります。私の記憶の中では、これが一番多く食べた料理だったような気がします。
鯉のたたき
鯉を細かくみじん切りし、味噌やねぎなどを加えたものです。生の料理ですので、少々生臭さが残り、クセがあります。
この他にも、鯉の甘露煮、塩焼きなどの料理もあります。興味がある方は、話の種に一度鯉料理を食べてみては如何でしょうか。
海外の鯉料理に目を向けてみましょう。
中国では鯉を丸揚げにし、甘酢あんかけで食べる糖醋鯉魚(タンツウリイユイ)があります。ドイツでは香味野菜と一緒に鯉を煮込む煮付けがあり、さらにフランスでは鯉のビール煮があるそうです。
最後に、中国の糖醋鯉魚風生き造りについて矢口高雄の作品の中に面白い話がありますので、引用して紹介します。
「釣りキチ三平 中国を行く」 矢口高雄 講談社 p78-79 より引用
昼食は湖畔のレストランであったが、ここで特筆すべきは中国式鯉の生き造りであった。コックが生きた鯉の頭に、無造作にタオルを巻きつけ、目の下のあたりを軽くつかみながら、ゴリゴリとウロコをはぎ取り切れめを入れた。そして次の瞬間サッとそれを持ち、グラグラに煮えたぎった油の鍋に、尻尾の方からつっこんだ。一同あぜん!!コックはさらに杓子で油をすくい、裏に表にかけた。この間十数秒。あとは大皿にのせ、醤油仕立てのアンをかけてできあがり。タオルの目隠しをはずされた頭部は、いうまでもなく生きているというわけだが、びっくりしたのか失神したのかぴくりとも動かない。
「二十五分すれば目を覚ます」とコックは笑った。案の定テーブルに運ばれた鯉はピタリ二十五分で目を覚まし、盛んに口をパクパク。同時にボクの口も、開いたままふさがらない。いやそればかりか正直なところ箸もでなかった。この料理のできるコックは無錫にも二人くらいしかいないらしいが、中国の生き造りと日本の生き造りとどっちが残酷かの話題になった。だが結論は、中国側も日本側もお互いゆずらず平行線であった。
この話を読んで、鯉の生命力に関して私は幼い頃の記憶が甦えりました。祖母が鯉を一匹買い、甘煮を作ろうとした時のことです。まな板の上で鯉をブツ切りにしていったところ、切り身のひとつひとつがまだピクピク動いているのです。子供の頃は残酷さなど感じる以前に、この動いているようすがとても興味深く、食い入るように見ていました。今でも鮮明に思い出すことができます。
参考文献
1)「魚料理のサイエンス」 成瀬宇平 新潮社
2)「釣りキチ三平 中国を行く」 矢口高雄 講談社