「浸透圧」という言葉は、私にとっては遠い過去に習ったような記憶があります。それから数十年後に、こうして趣味の世界で再びこの言葉を思い出すとは思いもよりませんでした。その「浸透圧」とはいったいなんでしょうか?
低濃度の溶液と高濃度の溶液とが半透膜で仕切られている場合、低濃度から高濃度の溶液に溶媒が移動しますが、これを「浸透」といいます。「浸透」にともなって発生するふたつの溶液の圧力差を「浸透圧」といいます。これでは何だかよく分からない説明ですので、図を使って説明します。
よく教科書などに登場するU字管の中央を半透膜(中央の赤い線)で仕切ります。半透膜とはある一定の大きさ以下の分子やイオンを透過し、大きな分子やイオンは透過しない膜をいいます。つまり分子レベルの大きさのフィルターだと思えばわかりやすいですね。半透膜を境に左側に真水、右側に食塩水を入れると、やがて右側の食塩水のほうが液面が高くなります。この液面の高さの差に相当する真水の重さが浸透圧です。実験で用いる半透膜はセロハンが挙げられます。
さて、わざわざこんな説明をするのは、実は魚にとってこの浸透圧は切っても切れない縁にあるからです。
上の説明と鯉を照らし合わせて考えて見ましょう。食塩水が鯉の体液で、真水が河川の淡水と思ってください。浸透圧によって周囲の淡水は鯉の体内に常に侵入してきますので、そのままでは水脹れになって生きていけません。そこで、浸入してくる水を大量の尿として排出することで体内の水分を調節しています。その一方で、尿とともにナトリウムイオンが失われないように膀胱でナトリウムイオンを再吸収したり、食物から補充したりしています。またエラの二次鰓葉には塩類細胞が多数並んでおり、液胞性プロトンATPアーゼという酵素の働きによりナトリウムイオンを取り込むことができます。
ちなみに、海水魚は鯉とは全く反対になります。海水魚は周囲の海水の方が濃度が高いため、常に体内の水分が海水に出てしまいます。そこで海水をどんどん飲み込んで腸で吸収して水分を補給しています。尿はごく少量におさえています。したがって、ナトリウムイオンが体内に過剰になりがちになりますので、鰓葉やその周辺の表皮に並ぶ塩類細胞からナトリウムイオンを排出しています。
では、海水と淡水を行き来する魚種はどうなっているかと言いますと、淡水魚の機能と海水魚の機能が生活水域の変化に応じて切り換わるようになっているそうです。
参考文献
1)「旬の魚はなぜうまい」 岩井保 岩波書店
2)「釣り魚博士」 岩井保 保育社