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鯉の芸術と民芸品 / 自在鉤

日本の伝統家屋における囲炉裏の位置づけは、極めて重要な意味を持ちます。暖房、料理、茅葺屋根の防虫、照明など生活上の実用性の側面と、火を囲んで一家団欒のひと時を過ごしたり、来客をもてなしたりと、囲炉裏の火は人間をリラックスさせ、お互いの円滑な関係を築くための道具としての側面があると思います。
 
幼い頃、私の母の実家に遊びに行くと、囲炉裏を囲んで楽しく過ごした記憶があります。主人は横座と呼ばれる位置に座り、その隣で台所に近い側に主婦の席があります。主婦の席の対面側で、玄関に近い席が客座で、私はいつもそこに父と一緒に座っていました。伯母はいつもせわしく動き回り、伯父は横座でタバコをくゆらせながら時どき囲炉裏に薪をくべ、私どもの相手をしてくれました。遠い記憶を辿ると、伯父の話では築100年は経つというの典型的な農家の茅葺家屋でした。
 

出典)「日本の家」中川武 TOTO 出版 p107


さて一般に囲炉裏の火に鍋や鉄瓶などを掛ける道具として、江戸時代から自在鉤が用いられてきました。火力の調整をするよりも、鍋を上下して煮炊きの加減を調整するほうがたやすいこと、様々な大きさの料理器具を掛けるために、鉤の高さを自在に変える必要があることから、生活の知恵として考案された道具だと考えられます。
 
囲炉裏の上部には木製の枠である火棚が吊り下げられています。これは濡れた衣類などを乾かしたり、火の粉が高く舞い上がるのを防ぐ役目があります。その下に自在鉤がつるされています。自在鉤は鉤の位置を自在に調節する横木がついていて、これを「小猿」と呼びます。左の写真では小猿が魚の形をしたものが使われていることが分ります。魚の頭側を持ち上げるようにして鉤を上下に調節し、再び小猿の頭を下に下げると鉤の上下がロックします。
 

鯉の小猿(横手市ふるさと村にて撮影:mi○)


この小猿は、色々なデザインのものが見受けられますが、その中でも代表格は鯉とタイの彫刻です。鯉とタイは「鯉の名前」のページにも記載しましたように、淡水の王者と海水の王者として双璧をなしていました。そもそも何故、この小猿に魚が用いられるようになったかといいますと、まず小猿の機能からすると横長の形が都合が良く、これが魚の形に似ていること、さらに魚は水に通じるために火の用心になると言われていますが、本当の由来は定かではありません。
 

参考文献
1)「日本の家」 中川武 TOTO出版

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