鯉はオーストラリア大陸と南アメリカ大陸を除く、ほぼ全世界に分布しています。その原産地はというと、現代でもまだはっきりとしていないのですが、中央アジアが原産地という説と、ドナウ河下流域の東ヨーロッパが原産地という説が有力だとのことです。いずれにしてもユーラシア大陸が起源であることは間違いなさそうです。
鯉の原産地と世界の分布
日本では古来から生活に密着している鯉ですが、日本には何時頃から生息しているのでしょうか。かつてある学説では大陸から人が移入したとされたことがありました。ところがその後この説をくつがえす発見がありました。人が地上に現れる以前の今から約1500万年前にできた壱岐島(いきのしま)の地層から、鯉の化石が出土したのです。現在の鯉とは少し種類が違う鯉だということですが、今のところ国内では最も古い鯉の生息の証明です。その後、日本列島が大陸と地続きだった数万年前に大陸種が日本に住み着いたとも考えられています。また3~4千年前の縄文時代の貝塚から鯉の骨が発見されています。
ヨーロッパには人の手によって広まったと考えられる鯉ですが、ドーバー海峡を渡って英国に伝わったのは大分年数が経ってからのようです。紀元前300年にギリシャのアリストテレスが書いた文献に鯉の記述があるのに対し、英国での最初の鯉の記述は1496年のD.J.バーナーによるものでした。文献上での比較ではありますが、1000年以上の差があることになります。 釣り人のバイブル「釣魚大全」の中では、次のように述べられています。「イギリスにおいてもっとも鯉のたくさんいる州はサセックスで、そこのプラムステッドというところに住んでいるマスカルという男が、ここに移入したという話です。」
また、ヨーロッパといえば私達日本人は、すぐにドイツ鯉を思い浮かべます。この名前からドイツが品種改良の発祥の地だとばかり思っていたのですが、実はオーストリアで1782年に品種改良 が始まり、20世紀はじめにドイツで改良されたのが現在の品種の原型になっているそうです。その後、明治時代にドイツから日本に移入されました。このことからドイツ鯉と呼ばれたようです。
次に東南アジアですが、もともとヒマラヤ以南の諸国には鯉は生息していなかったそうです。その中でもインドネシアには早く移植され、200年から300年ほど前に中国からの集団移住者達が持ち込んだと言われています。またフィリピンの鯉の歴史は浅く、1912年台湾から移植されました。
東アジアのチベット高原に住む鯉は鱗のないほっそりとした鯉で、学名がギムノキプリヌス(ハダカゴイの意味)だそうです。ドイツ鯉と同様に鱗がない点は一致していますが、ほっそりとし体型は真鯉に似ています。人工的に品種改良されたヨーロッパの革鯉がこの地方に伝わって現代に至っているのか、はたまた原種の鯉がこの地域で独自に進化して現在の姿になっているのかは定かではありません。
さらに北米への移入については、1877年に成功したという文献があります。ヨーロッパでの鯉の広がりの歴史から見ますと、北米への移入は随分と時間が経過してからであることがわかります。
参考文献
1)「魚は夢を見ているか」鈴木克美 丸善
2)「日本の魚」上野輝彌、坂本一男 中公新書
3)「コイの釣り方」芳賀故城 金園社
4)「魚の社会学」加福竹一郎 共立出版
5)「完訳 釣魚大全」アイザック・ウォルトン 訳:森秀人 角川書店
6)「川と湖の魚①」川那部浩哉 水野信彦 保育社