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鯉の生態 / 味覚

人間と同様に魚も味覚を有しています。味覚の受容器は味蕾(みらい)と呼ばれます。 表皮組織の中に埋め込まれたような小器官で、名前の通り花の蕾(つぼみ)のような形をしています。ここで受けた味の刺激は、神経を伝わり脳の味覚中枢に送られ、「味」として感知することができます。
 
魚の味蕾は口内の天井部、唇、エラの上に多数あり、さらに鯉やドジョウ、ナマズのように口ひげがある魚種は、ひげの表面にも味蕾を多数持っています。 その他に、ヒレも含めた皮膚のあちこちに味蕾は分布しています。人間の場合は舌で味を感じますが、それからすると体のいたるところで味を感じるというのは異様に思えるかもしれませんが、水中で暮らす魚にとっては全身が水に触れているわけですから、全身で味を感じても不思議なことではなく、むしろ合理的といえます。
 
ひげの味蕾は味覚のみならず触覚神経にもつながっています。これにより、視覚の使えない泥水の中であっても、水底に棲むイトミミズや水生昆虫、あるいは藻類のような植物質を探し当て食べることができます。

鯉の口内天井部の味蕾  出典)「釣り魚博士」 岩井保 保育社 p133 より

鯉の口ひげの断面  出典)「釣り魚博士」 岩井保 保育社 p134 より

味覚の研究結果によると、鯉は塩味、酸味、苦味、甘味の基本的な四種の味を感知します。特に塩味については、人間が関知する濃度よりもはるかに薄い溶液に確実に反応するそうです。また、人間の味覚のおよばない二酸化炭素に対しても敏感に反応します。鯉のウキブクロのガスには二酸化炭素が 含まれていて、鯉は常にガス調節をしています。そのため、人間にとっては無味無臭の二酸化炭素でも、鯉はその味を感知できると考えられています。
 
鯉の口内天井部の味蕾  出典)「釣り魚博士」 岩井保 保育社 p133 より鯉の口ひげの断面  出典)「釣り魚博士」 岩井保 保育社 p134 より鯉が著しく反応する溶液は、実験の結果からサナギの抽出物、牛乳、人間の唾液等があげられます。人間の唾液は澱粉を糖質に分解する「プチアリン」という酵素を含んでいます。これはアルカリ性で、先に述べた二酸化炭素もアルカリ性であることから、鯉はアルカリ性物質をよく感知する ことができます。
 
また、スウェーデンの鯉は日本の鯉よりも甘味と酸味に敏感で、苦味には鈍感であるそうです。鯉の種類によっても多少、感覚の相違があるようです。
 
以上から魚にも立派な味覚があることがおわかりになったことと思いますが、魚は人間のように味わってエサをたべているわけではないようです。口の中に入った固体は鰓耙で濾され、味蕾によって瞬時にエサと異物を識別して、飲み込むか吐出すかを判断します。ちなみに鯉の場合、エサの摂餌速度は時速0.5km、これに対して吐出し速度は時速3kmという実験結果があるそうです。
 
最後に水質汚染と味覚についてひとつお話しをしておきます。合成洗剤入りの水槽でナマズを飼育した結果、口ヒゲの味蕾は次第に侵され、やがて崩壊し、好きなエキスにも反応しなくなってしまうという実験結果があります。水に含まれる合成洗剤が0.5ppmなら20日前後で、10ppmなら3時間余りで味覚は麻痺します。ちなみに1ppmとは水1立方メートル(つまり1トン)に対して水1立方センチメートル(つまり1g)の量をいいます。この半分の量の0.5ppmであってもナマズに影響がでるということですから、生活排水が直接河川湖沼に流入することは、魚にとって重大な影響を及ぼします。また私どもは、日常生活においても合成洗剤の使用量を必要最小限にとどめることが大切です。
 

参考文献
1)「釣り魚博士」 岩井保 保育社
2)「釣りの科学」 森秀人 講談社
3)「魚の社会学」 加福竹一郎 共立出版
4)「魚は夢を見ているか」 鈴木克美 丸善

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