伝統的な滝登り図や仙人図以外にもすぐれた鯉図が残されていますのでいくつか紹介しましょう。
下の絵は柴田是真の作品で、「滝に登鯉図」(出典 「日本絵画のあそび」 榊原悟 岩波新書 p90)です。滝登りしようとした鯉が見事に失敗して弾き飛ばされた絵です。鯉を寄せ付けないほどの水勢を誇る滝と、まったく歯が立たないといった感じの鯉が実にユーモラスに描かれています。鯉といえば滝登り図という一般常識の裏をかいた珍しい作品です。
滝に登鯉図
柴田是真は幕末から明治にかけて活躍した画家で、意表をついた絵を好んで描く画家であったようです。他の代表作品のひとつに「鐘馗と小鬼」があります。鐘馗に睨まれて恐れをなした小鬼たちが慌てふためいて逃げ惑い、画面の枠組みの外まで逃げ出した作品です。絵画は枠の中に納めるものという既成概念を無視した、自由奔放な作風が信条の画家です。
左下の2匹の鯉が描かれた作品は、雪村の「花鳥図」の中に描かれた鯉の部分を抜粋したものです。「花鳥図」ですから、この鯉のほかに梅の木、鷺が描かれているわけですが、なぜかこの鯉が異様に大きく描かれています。雪村は鯉を好んで書いた画家のひとりですが、身近で見る淡水の王者に深い思いいれがあったかもしれません。非常に力強く表現された鯉の絵です。
右下の皿は伊万里焼です。鯉と矢羽根が描かれていますが、この組み合わせの由来はまだ調べていません。この鯉図で特筆すべきは、鯉がイラスト化されている点でしょう。鯉の特徴であるヒゲもなく、一見してタイと勘違いしてしまいそうです。可愛い鯉のイラストに料理も引き立ちそうです。
雪村周継「花鳥図」出典)「 水墨画発見」 山下裕二編 平凡社 p61
染付け鯉と矢羽根にみじん唐草文輪花鉢 出典)「古伊万里 小皿・豆皿・小鉢1000」講談社 p111
参考文献
1)「日本絵画のあそび」 榊原悟 岩波新書
2)「別冊太陽 水墨画発見」 山下裕二編 平凡社
3)「古伊万里 小皿・豆皿・小鉢 1000」 講談社