日本では各地に巨鯉伝説があり、「沼や川の主」とか「百年鯉」などと呼ばれることがあります。実際、鯉の寿命はどの程度でしょうか。以下に文献ごとの寿命に関する記載を引用紹介します。
ふつう20年ぐらいだが70~80年生きるものもかなりいて、なかには200年をこすものもあるという。(参考文献1)
池の主などといわれることがあって、なかなか長命である。学者の記録によると、長寿のレコードは47年だというから、ずいぶん長生きではないか。 (参考文献2)
コイの寿命は40~50年で、なかには150年も生きた長寿のコイもいるということです。(参考文献3)
たいていの魚は、あまり長命ではないが、コイは人間とかわりないほど長生きする。小牧、祖山ダムの大物は、数十年以上、100年近くも生きていた老大魚である。 (参考文献4)
寿命は普通20年ほど。中には50年以上も生き、80cm、15kg以上になるものもある。1.43m、45kgの記録がある。(参考文献5)
フランシス・ベーコン卿の「生と死の歴史」には鯉の生命はたった十年そこそこだと書かれていますが、もっと長く生きると考えるひともいます。パラティネイト地方では、鯉は百年以上も生きていると信じられているとゲスナーもいっています。 (参考文献6)
野外で20歳以上になるのは稀だが、飼育条件下での寿命は50-60歳に達する。岐阜県下のニシキゴイで、鱗の年輪から210歳以上と判定されたものがある。 (参考文献7)
以上からわかるように、要するに鯉の寿命ははっきりわからないということのようです。人間のように戸籍が管理され、平均寿命が算出されるわけではないので、あくまでも長寿記録が各地で語り継がれているだけのようです。
次に、鯉の年齢を知る方法についてお話しします。
まず、誰でも知っている方法は鱗の年輪状の縞を数えることでしょう。そもそもなぜ鱗に縞が入るかをまず説明します。鱗は人間で言うと爪と同じようなもので、皮膚から鱗になるものが分泌され次第に大きくなっていきます。その分泌量は水温と大いに関係があり、水温が高い季節は鱗の成長がはやく、水温の低い冬季には分泌量が少なくなるため鱗の成長が遅くなり、結果的にこの成長速度の違いから年輪状の縞模様ができます。このメカニズムは木の年輪とまったく似通っています。時々タモについた鯉の鱗の縞模様を数えてみようとするのですが、実際はなかなか年輪が明確にはわからないことが多いです。数えたとしても10年までは数えることができません。私ども素人にとってこの方法が有効なのは、生後数年間の鯉だけのような気がしています。 従いまして、参考文献7に記載されているように、本当に年輪から210歳以上と判定できるかどうか、信憑性は定かではありません。
さらに他の年齢の数え方としては、背骨の年輪を数える方法があります。下図は文献から引用したものですが、背骨を切り離してその内側を示したものです。すり鉢状にくぼんだ面に、年齢に応じた縞があります。ただし、この方法も精々7、8歳までしか数えることができず、それ以上になると年輪がわかりづらくなってしまうそうです。
魚の背骨に現れる年輪
この他に、魚の耳にある耳石にも年輪があり、これを数えることもできるそうですが、これまで述べたいずれの方法も学術研究においては有効だと思いますが、私ども釣り人はやはり鯉に与えるダメージを最小限にすることが大事です。ここに記載した内容は知識としてとどめておくことにしましょう。
参考文献
1)「釣りキチ三平の鯉&鮒フィッシング入門」矢口高雄 講談社
2)「魚の博物事典」末広恭雄 講談社
3)「コイの釣り方」芳賀故城 金園社
4)「詳しくわかる野ゴイ釣り」小西茂木 西東社
5)「空から見た 北浦・霞ヶ浦の釣り」茨城新聞社
6)「完訳 釣魚大全」アイザック・ウォルトン 訳=森秀人 角川書店
7)「川と湖の魚①」川那部浩哉 水野信彦 保育社
8)「魚の生活」末広恭雄 ベースボールマガジン社