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鯉に関する文献 / アリストテレスの研究

「アリストテレスって誰?」と聞かれたら「古代ギリシャの哲学者」と答える人が多いと思います。間違いではありませんが実はそれだけではなく、鯉とも関係があった人なのです。どういう風に関係があたのか、このページで解説していくことにします。
 
アリストテレスは紀元前384年から322年まで生きた人です。ソクラテス、プラトンと並んで3大哲学者として広く知られています。アレクサンドロス大王の家庭教師もつとめる一方で、自然科学の分野においても幅広く研究をし、「学問の祖」とも呼ばれています。哲学と並んで天文学、気象学、動物学、植物学の研究も行いました。
 
動物学におきましては、500種の生物について論じた「動物誌」の中に、鯉に関する記述が見られます。鯉の記録としてはこれが世界で最初とされ 、貴重な文献ですので、以下に引用して紹介します。
 

----------(第六巻 第十四章より)----------

沼や川の魚は通例生後五個月で卵をはらむが、産むのはみな一年たってからである。これらも海の魚と同じように、(雌は卵を、雄は精液を全部一度に放出するのではなくて、)雌は卵を、雄は精液を多かれ少なかれいつでも持っている。彼らは適当な時期に産み、コイは五回か六回産むが、産卵は特に星に合わせて行う。カルキスは三回産み、他の魚はみな一年に一回である。彼らは川の溜り水の中や沼のアシの類に産むので、たとえばハヤやスズキがそうである。<中略>
彼らは時には大きいのと小さいのが互いにもつれ合い、或る人々が「へそ」と称する生殖物質を出す孔を互いに近づけて、前者は卵を、後者は精液を出すのである。精液の混じった卵はすぐ白くなり、いわば一日の中に大きくなる。その後わずかの間に魚の目がはっきりとわかるようになる。すなわち、目はあらゆる魚類において、他の動物におけると同様、すぐに一番はっきり分り、一番大きく見えるものなのである。しかし、精液にふれなかった卵は、海の魚の場合と同様、無用であり生殖力がない。生殖力のある卵からは、幼魚が生長すると、鞘のようなものがはがれるが、これは卵と幼魚を包む膜である。卵に精液が混じると、それらから出来上った物は非常に膠状に[ねばっこく]なり、木の根とか産みつけられた物にくっつくのである。一番沢山産んだ場所で雄が卵の番をするが、雌は産んでしまうと離れ去る。卵からの生長が一番遅いのはナマズであって、それゆえ産まれた卵がたまたまそばに来る小魚に食われないように、雄は四十日も五十日もそばにいて見守っている。その次に遅いのはコイの発生で、ナマズやコイでも生き残ってかえった子は、他の魚と同じように、素早く[その場所から]逃げ去る。もっと小さい或る魚では産卵後三日間でもすでに幼魚が見られる。精液が表面にふれた卵はその日も、さらにそれ以降も、生長する。ところでナマズの卵はヤハズエンドウの豆位の大きさであるが、コイ等の卵はアワ粒位である。<中略>
コイやバレロスやその他いわばすべての魚は産卵のために浅い所へひしめき合い、しばしば一尾の雌に十三、四尾の雄がつきまとっている。雌が卵を放出してその場を離れると、そばについている雄が精液をかけるのである。しかし卵の大部分はだめになる。なぜなら雌は移動しながら産んでいくので、水流に巻き込まれて物につくことのできなかった卵は散乱するからである。現にナマズ以外の魚には卵の番をするものはないのであって、ただコイだけは自分の産んだ卵塊のそばにいることがあり、「コイは卵の番をする」といわれている。

----------(引用ここまで)----------

 
鯉が卵の番をするという記述は、必ずしも正しくないと思われますが、アリストテレスの時代にはそのように考えられていました。これ以外に、現代の科学の常識からあきらかに間違いである記述が他の章の所々にみられます。しかし、動物学上の価値は古代文献としてゆるぎないものです。

文献の目次を参考までに掲載します。訳者によると、最後の二巻あるいは三巻(第八巻~第十巻)は偽書(アリストテレスが書いたものではない)と考えられているようです。特に最後の第十巻は明らかに後世の人が追加したものとされています。
 

アリストテレス全集 動物誌 目次
第一巻

第一章 等質部分と異質部分 種と類 生活法や行動や性格による相違
第二章 食物を取り入れる部分と、排出する部分
第三章 雌と雄 触覚器
第四章 血液と血管 有血動物と無血動物
第五章 胎生、卵生、蛆生の動物 足、ひれ、翼 運動点の数
第六章 動物界の諸類 動物研究の方法
第七章 体の外部(頭蓋)
第八章 人体の外部(顔)
第九章 人体の外部(眉と目)
第十章 人体の外部(眉と目)
第十一章 人体の外部(耳、鼻、顎、口、舌)
第十ニ章 人体の外部(頸、胸)
第十三章 人体の外部(胸と腰 子宮と陰茎)
第十四章 人体の外部(女性陰部 各部に共通な部分)
第十五章 人体の外部(背部と肋骨 上下左右の相違腕と脚人体の特殊性)
第十六章 人体の内部(脳 気管と肺 食道と胃と腸)
第十七章 人体の内部(心臓 肺臓 横隔膜 肝臓と脾臓 腎臓と膀胱)
 

第ニ巻

第一章 胎生四足類の外部(四肢 歯)
第二章 胎生四足類の外部(イヌの歯)
第三章 胎生四足類の外部(ウマ等の歯)
第四章 胎生四足類の外部(ヒトの歯)
第五章 胎生四足類の外部(ゾウの歯)
第六章 胎生四足類の外部(ゾウの舌)
第七章 胎生四足類の外部(口 カバ)
第八章 胎生四足類の外部(サル)
第九章 胎生四足類の外部(サル)
第十章 胎生四足類の外部
第十一章 胎生四足類の外部(カメレオン)
第十ニ章 鳥類の外部
第十三章 鳥類の外部 イルカについて
第十四章 蛇類、ゴカイその他の外部
第十五章 有血動物の内部(食道 気管と肺臓 肝臓と脾臓 胆のう)
第十六章 有血動物の内部(腎臓と膀胱)
第十七章 有血動物の内部(心臓 肝臓と脾臓 胃と腸)ヘビについて
 

第三巻

第一章 有血動物の内部(生殖に関する部分)
第二章 有血動物の等質部分(血液と血管 シュエンネシスとアポルロニアのディオゲネスによる人体血管の分布)
第三章 有血動物の等質部分(ポリュポスによる人体血管の分布)
第四章 有血動物の等質部分(著者の見解による血管分布と心臓)
第五章 有血動物の等質部分(腱)
第六章 有血動物の等質部分(線維 血液の凝固)
第七章 有血動物の等質部分(骨)
第八章 有血動物の等質部分(軟骨)
第九章 有血動物の等質部分(角、爪、蹄)
第十章 有血動物の等質部分(毛と皮)
第十一章 有血動物の等質部分(毛と皮)
第十ニ章 有血動物の等質部分(羽と毛)
第十三章 有血動物の等質部分(膜)
第十四章 有血動物の等質部分(網膜)
第十五章 有血動物の等質部分(膀胱)
第十六章 有血動物の等質部分(肉)
第十七章 有血動物の等質部分(軟脂と硬脂)
第十八章 有血動物の等質部分(脂肪)
第十九章 有血動物の等質部分(血液の性質)
第ニ十章 有血動物の等質部分(骨髄 乳とチーズ)
第ニ十一章 有血動物の等質部分(凝乳剤 家畜の乳)
第ニ十ニ章 有血動物の等質部分(精液)
 

第四巻

第一章 無血動物の諸類 軟体類とその部分
第二章 軟殻類とその部分
第三章 軟殻類とその部分
第四章 殻皮類とその部分 ヤドカリ類
第五章 ウニ類
第六章 ホヤ類 イソギンチャク
第七章 有節類とその部分 海産の珍奇な動物
第八章 感覚と感覚器
第九章 音と声と言葉
第十章 睡眠と覚醒 夢
第十一章 雄と雌の相違
 

第五巻

第一章 生殖発生
第二章 交尾(鳥類と胎生四足類)
第三章 交尾(卵生四足類)
第四章 交尾(蛇類その他)
第五章 交尾(魚類 シャコ)
第六章 交尾(軟体類)
第七章 交尾(軟殻類)
第八章 交尾(有節類) 交尾期 カワセミ
第九章 交尾期(鳥類、有節類、魚類)
第十章 交尾期(魚類)
第十一章 交尾期(魚類)
第十ニ章 交尾期(軟体類と殻皮類)
第十三章 交尾期(野鳥と家禽)
第十四章 年齢と成熟の徴候 交尾期(人類と胎生四足類)
第十五章 生殖発生(殻皮類 ヒトデとヤドカリ)
第十六章 生殖発生(イソギンチャクとカイメン)
第十七章 産卵習性(軟殻類)
第十八章 産卵習性(軟体類)
第十九章 産卵習性(有節類)(雪や火の中の虫 カゲロウ)
第ニ十章 産卵習性(カチュウドバチ)
第ニ十一章 産卵習性(ミツバチ)
第ニ十ニ章 ミツバチの種類 蜂蜜
第ニ十三章 産卵習性(ジバチ キバチ)
第ニ十四章 産卵習性(カイコバチ)
第ニ十五章 産卵習性(アリ)
第ニ十六章 産卵習性(サソリ)
第ニ十七章 産卵習性(クモ)
第ニ十八章 産卵習性(バッタ)
第ニ十九章 産卵習性(イナゴ)
第三十章 産卵習性(セミ)
第三十一章 生殖発生(ノミとシラミ ナンキンムシ 魚の寄生虫)
第三十ニ章 イガ ミノムシ イチジクのハチと結実との関係
第三十三章 生殖発生(カメ トカゲ ワニ)
第三十四章 生殖発生(蛇類)
 

第六巻

第一章   鳥類の交尾と造巣
第二章   鳥卵 風卵 ハトの交尾
第三章   ニワトリの卵の構造と胚の発生
第四章   ハトの産卵習性
第五章   ハゲワシ ツバメの雛
第六章   ワシ類とその育雛
第七章   カッコウとその産卵習性
第八章   ハト、カラス及びシャコの抱卵
第九章   クジャクの習性
第十章   軟骨魚類の生殖発生 サメ類の胎児と胎膜
第十一章 軟骨魚類の生殖発生(続き)
第十ニ章 イルカその他の鯨類及びそれらの生殖発生
第十三章 卵生魚類の発生
第十四章 コイ、ナマズ及びその他の淡水魚類
第十五章 或る魚類の自然発生
第十六章 ウナギの異常な発生
第十七章 魚類の産卵期 ヨウジウオ マグロとサバ
第十八章 胎生四足類の交尾と妊娠(ラクダ、ゾウ、ウマ、ウシ、ブタ)
第十九章 胎生四足類の交尾と妊娠(ヒツジ、ヤギ)
第ニ十章 胎生四足類の交尾と妊娠(イヌ)
第ニ十一章 胎生四足類の交尾と妊娠(ウシの詳細)
第ニ十ニ章 胎生四足類の交尾と妊娠(ウマの詳細)
第ニ十三章 胎生四足類の交尾と妊娠(ロバ)
第ニ十四章 ラバ
第ニ十五章 胎生四足類の年齢の徴候
第ニ十六章 ラクダ
第ニ十七章 ゾウ
第ニ十八章 イノシシ
第ニ十九章 シカ
第三十章  クマ
第三十一章 ライオン
第三十ニ章 ハイエナ
第三十三章 ウサギ
第三十四章 キツネ
第三十五章 オオカミ、ネコ、イクネウモン、ヒョウ、ヤマイヌ
第三十六章 シリアのラバ
第三十七章 ネズミ
 

第七巻

第一章 男女の思春期の徴候
第二章 月経
第三章 妊娠の徴候 下り物と流産
第四章 妊娠 双生児及び多生児
第五章 授乳 出産期
第六章 妊娠期間 生殖と出産の個体差 奇形の遺伝 両親との類似
第七章 受胎 胎児の発育
第八章 胎児
第九章 陣痛
第十章 分娩 新生児
第十一章 乳 乳房の疾患
第十ニ章 幼児の疾病
 

第八巻

第一章 動物の心理学 生物界の階段における連続性の原理 植物と動物の定義
第二章 陸上動物と水生動物 イルカ 胚体の微小な変化が発生に影響する水生動物の習性と食物 ウナギとその漁法
第三章 鳥類の食物と習性
第四章 卵生四足類とヘビ類の食物と習性
第五章 胎生四足類の食物と習性
第六章 胎生四足類の飲み水 ブタの食物と太らせ方
第七章 ウシの食物と太らせ方 ウシの品種
第八章 ウマ、ラバおよびロバの食物 家畜の飲み水
第九章 ゾウの食物 ゾウとラクダの寿命
第十章 ヒツジとヤギの食物
第十一章 有節類(昆虫類)の食物
第十ニ章 鳥類の移動
第十三章 魚類の習性と移動
第十四章 有節類(昆虫類)の越冬
第十五章 魚類の越冬
第十六章 鳥類の越冬
第十七章 胎生四足類の越冬 ヘビ類、有節類および軟殻類の脱皮
第十八章 鳥類その他の動物に及ぼす季節や天候、乾燥や湿潤の影響
第十九章 魚類に及ぼす上記の影響 魚類の寄生虫
第ニ十章 或る魚類の病気 海のシラミ 毒物その他による魚の漁法 貝類に及ぼす雨や乾燥、熱さや寒さの影響
第ニ十一章 ブタの病気
第ニ十ニ章 イヌ、ラクダおよびゾウの病気
第ニ十三章 ウシの病気
第ニ十四章 ウマの病気
第ニ十五章 ロバの病気
第ニ十六章 ゾウの病気
第ニ十七章 有節類(昆虫類)について ミツバチの巣の寄生虫
第ニ十八章 動物の生息地の違い 動物の形態に及ぼす気候の影響
第ニ十九章 動物の習性に及ぼす気候の影響 或る地方の有毒動物
第三十章 魚類その他の海産物の季節的健康状態
 

第九巻

第一章 動物の心理学 両性の心理的相違 種々の動物の相互間の友好関係と敵対関係 ゾウの習性
第二章 群遊魚について 魚類のおける敵対関係
第三章 ヒツジやヤギの習性と知能
第四章 ウシやウマの習性と知能 
第五章 シカの習性と知能 
第六章 種々の動物の習性 野生動物の治療薬 ハリネズミやテンの悪賢さ
第七章 ツバメの造巣 ハトやシャコの交尾、産卵および育雛
第八章 ウズラやシャコの交尾、産卵および育雛(続き)
第九章 キツツキについて
第十章 ツルの知能 ペリカンについて
第十一章 ワシとハゲワシについて ミソサザイやその他の鳥類について
第十ニ章 ハクチョウについて カルキスまたはキュミンディスについてその他の鳥類について
第十三章 カケスについて コウノトリとハチクイの親子の情愛 ニクケイドリについて
第十四章 カワセミとその巣
第十五章 ヤツガシラやその他の鳥類について
第十六章 ヨシキリについて
第十七章 クイナについて ゴジョウカラについて キバシリについて
第十八章 サギについて
第十九章 クロウタドリについて ライオスについて
第ニ十章 ツグミについて
第ニ十一章 アオイトリについて
第ニ十ニ章 黄鳥について
第ニ十三章 パルダロスとコルリュリオンについて
第ニ十四章 コクマルガラスの種類について
第ニ十五章 ヒバリについて
第ニ十六章 ヤマシギについて
第ニ十七章 エジプトのイビスについて
第ニ十八章 ミミズクについて
第ニ十九章 カッコウについて
第三十章 イワツバメについて ヨタカについて
第三十一章 オオガラスについて
第三十ニ章 ワシについて
第三十三章 スキュティアの大きな鳥について
第三十四章 オオハゲワシについて
第三十五章 ケッポスについて
第三十六章 タカについて トラキアのタカ狩り マイオティス湖畔のオオカミ
第三十七章 アンコウ、シビレエイその他の魚類の習性 コウイカやフネダコについて
第三十八章 勤勉な虫類 アリについて
第三十九章 クモとクモの巣
第四十章 ミツバチの生活
第四十一章 キバチについて
第四十ニ章 アントレネと称するキバチについて
第四十三章 マルハナバチについて
第四十四章 ライオンやその他の動物の気性
第四十五章 メッサピオン山のヤギュウ
第四十六章 ゾウについて
第四十七章 ラクダについて スキュティア王の雌ウマ
第四十八章 イルカの愛情深い性質
第四十九章 雄ドリのようになった雌ドリ
第五十章 去勢の影響 反芻について
第四十九B章 鳥類にお変態 ヤツガシラについて 水浴びする鳥と砂浴びする鳥
 

第十巻

第一章 ヒトの不妊症の原因は子宮や月経にある
第二章 月経および子宮頸部の検査
第三章 子宮の正常態と異常態
第四章 不妊症のその他の原因---子宮のけいれんと腫瘍など
第五章 不妊症の原因(続き)---男女両性の射精の不一致 射精量 子宮内部の解剖
第六章 生殖における女性の役割
第七章 石胎について

参考文献
1)「アリストテレス全集 動物誌 上/下」 アリストテレス著 島崎三郎訳 岩波書店
2)「魚の社会学」 加福竹一郎 共立出版

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