キャスティングする場合、Ambassader7000なら右サイドプレートにあるボタンを押すことでスプールがフリーになり、正逆転が自由になります。ボタンをおすとカチッとロックしてスプールフリーになり、ハンドルを回すとカシャンとボタンが戻って(オートリータンクラッチ)、再びスプールはハンドルの回転に連動して、ラインの巻き取り方向のみに回転できるようになります。一見してこの単純な機能はどのようにして達成されているのかお話します。
下の写真は右サイドプレートの内部です。右サイドプレートはハンドルまで含めて一体のモジュールとなっており、ローレットネジをたった3本緩めるだけでメインフレームから簡単に分離することができます。ハンドルをはずし、さらにキャップをあけると写真の状態が現れます。この機構の中に、メインギヤとピニオンギヤ、プッシュ式スプールフリー機構およびオートリターンクラッチ機構が搭載されています。
Ambassaduerは単純な機構が多いので、内部を見るとすぐに理解することができますが、写真の機構だけは初めて見た時にはすぐに理解することができませんでした。しかし丹念にパーツの機能や形状の意味を理解していと、設計者の意図が鮮明に浮かび上がってきて、今では私が最も好きな部分です。手にした時、作った人の思い入れが伝わってくる製品は、より一層愛着が深まってきます。
まず、クラッチの動作原理をお話します。下のイラストは、通常の巻き取り状態とクラッチが切れてスプールフリーになった状態を示します。
プレスアームはイラストの左右方向にスライド可能です。先端部分はクラッチアームのスロープが付いた部分に接するように配置されています(青丸A1)。クラッチアームは、左はピンに連結され、右はピニオンの溝にはめ込まれています。左のピンを支点に右のピニオン側がスプールシャフトに沿って上下することができます。クラッチアームの中間にはスプリングがあり、これによってクラッチアームは常に下側に押し付けられた状態、つまりピニオンがスプールと連結した状態(青丸A2)になります。
次のイラストを説明します。プレスアームを押し込むと、先端がクラッチアームのスロープに乗り上げ(青丸B1)、ピニオンを持ち上げることでクラッチが切れます(青丸B2)。尚、ピニオンとメインギヤは十分な幅がありますので、ピニオンが上下にスライドしても、ギヤの噛み合いは保たれたままになります。
次に、プレスアームを押し込んでカチッとロックする動作について説明します。下の写真は通常の巻き取り状とプレスアームを押し込んでカチッとロックされた状態を示しています。ここで活躍するパーツは、蟹の腕を連想させる一対のロックアームと、プレスアームにカシメられた2本のロックピンです。
プレスアームが押されていないときは、ロックアームの先端がロックピンに接しています。ロックアームは、それぞれのスプリングによって常に内側に閉じようとしています。ロックアームの回転軸は十字線で示したカシメになります。
プレスアームが押し込まれるとロックアームの先端はロックピンからはずれて内側に閉じ、蟹の腕がロックピンを抱え込んだ状態になります。ロックアームは内側のアール部分がスプリングを掛けているピンに当たって止まります。これが当たる時にカチッと音がしていたわけです。プレスアームはスプリングによって常に左側に戻ろうとする力がかかっていて、ロックピンを抱え込んだロックアームとバランスしてロックします。
最後に、ロックを解除するオートリターンクラッチ機構について説明します。メインギヤの裏側にラチェットがあります。さらによく見ると、ラチェットには2ヶ所突起が付いています。この突起がロックを解除する働きをします。
メインギヤが回転すると、突起が順次ロックアームの白矢印部分を押し広げるように接触し、蟹の腕が開いてロックピンがはずれ、スプリング力によってプレスアームが左に戻ります。
ロックアームは一見して不思議な曲線のパーツですが、機構学的に見るとすべて基本に忠実であり、意味を持っています。この曲線を見ていると、エーケ・マーバルが曲線を計算しながら図面を書いている光景が目に浮かんできます。
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