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メカニズム / なぜハンドルが逆回転しないか?

スピニングリールはレバーの切り替えによってハンドルを逆回転させることができますが、ベイトキャストリールは、ハンドルは逆回転しません。この違いは、ベイルの位置をキャスティング時に調整する必要があるスピニングに対して、キャスティングおよび魚とのやり取りの時もハンドル操作によってスプールを逆回転させる必要性がないベイトとの差からくるものです。

今回は、Ambassadeur7000を例に、ハンドルの逆回転防止機構についてお話します。一方向だけに回転する機構は昔から多用されており、身近なところでは自転車が挙げられます。ペダルをこぐと後輪にトルクが伝達され、ペダルを止めても後輪は回転し続けます。これはラチェット機構と呼ぶ構造により達成されています。Ambassdeur7000にも、これと同じラチェット機構が搭載され、ハンドルの逆回転防止の役割を果たしています。

ラチェット機構は、最初の写真のように、メインギヤの下側に実装されています。わかりやすいようにメインギヤ部をはずして裏側から見たのが、次の写真になります。通常のギヤとは違った山形の歯を持つ部品は「ラック」と呼ばれ、それに食い込む形でストッパーの役割をするパーツが「爪」と呼ばれます。爪はその穴に通すシャフトを中心に回転することができ、ラチェットの歯から離れたり、食い込んだりすることができます。

メインギヤの下にラチェット機構がある

メインギヤの裏側から見るとラチェットがわかりやすい

ラチェット機構をもう少し詳しく説明します。下の写真をご覧ください。爪にはラックを挟み込むように板バネがついています。板バネは次の写真でわかるように先端に行くほど隙間が狭くなっています。

ラインを巻き取る方向にハンドルを回したとき、ラックは正転方向に回転します。この時、ラックの歯の形状に沿って爪を跳ね上げ(写真のフリー方向)、ラックが回転します。

ハンドルを逆回転させようとすると、ラックは「逆転」方向に回転しようとします。この時、ラックを挟み込んでいる爪の板バネの先端が、ラックとともに回転しようとしますので、爪は必然的にラックに引き込まれることになります。その状態でラックの歯がかみ合うとロックされる仕組みです。

実際にハンドルをいじってみるとわかりますが、逆回転させてロックするまで少し遊びがあります。この遊びは、ラックの歯の数によって決まります。パーツの強度を確保するためには、歯のをある程度大きくする必要があります。写真からラックの歯が24あることがわかると思います。つまりハンドルは15度ごとに逆回転のロックが働くことになります。

ラチェットの動作

爪の板バネの先端でラックを挟み込む

ここまでは、ハンドルを逆回転しようとした場合のロックについてお話してきましたが、ドラグが効いてラインが引き出されるときもラチェットのロックが重要ですのでお話しておきます。

ラインが引き出されているときはスプールが逆回転し、ピニオンギヤとメインギヤが逆回転します。この際に、ラチェットのラックが逆転しようとしてロックがかかります。結果的にメインギヤブッシングがロックされ、メインギヤは逆回転し、その間に挟まれたドラグワッシャが働いてドラグが機能します。

ラチェット機構はハンドルの逆回転防止と、ラインが引き出される時のドラグの作用に機能していることがお分かりになりましたでしょうか。
 

インスタントアンチリバース機構(IAR)

以上がAmbassadeur7000に採用されているラチェット機構ですが、この他にAmbassadeurシリーズでは「インスタントアンチリバース機構」と呼ぶ方式を採用しているものがあり、現在の主流になってきています。

「インスタントアンチリバース機構(IAR)」とはABUが使っている名称で、国内メーカーでは「アンチリバース」あるいは「ワンウェイクラッチ」という名称で、実態としては同じものです。

IARの優れた点は、ラチェット機構のようにロックされるまでの遊びが小さく、瞬時に逆転防止ロックが作用します。これは、一瞬のフッキングの遅れが許されないルアーフィッシングでは歓迎されたようで、Ambassadeur5000シリーズ以下では早くから採用されました。しかし、Ambassadeur7000以上の大型リールへの採用は2007年になってからです。ハンドルの逆転ガタがないというのは、使っていて非常に良い感触です。
 

インスタントアンチリバース機構(ワンウェイクラッチ)の原理

 
しかし、当然のことながらIARにも欠点があります。ひとつは、原理的に摩擦に頼った逆転防止のロック方法ですから、限界を超えたトルクがかかると滑ってしまいます。もうひとつの欠点は、IARの実装設計から、逆転防止のロックの力が右サイドキャップにダイレクトにかかるために強度確保が必要であり、結果的に重量アップになってしまいます。

例えば、Ambassadeur7000シリーズで初のIARを採用した7000iを例に挙げると、IARを採用しているにもかかわらず、従来のラチェット機構も搭載しています。これはつまり、IARのロックが滑ってしまった時に、ラチェット機構のロックに頼るという思想の設計になっています。また、リール重量に関しては、7000が510gに対して7000iが597gであり、17%の重量増となっています。

私個人の考えとしては、鯉釣りに関して言えばIARは必須機能ではないと思います。ましてや、ラチェット機構も一緒に搭載しているのですから、少なくともAmbassadeur7000シリーズ以上の大型リールに関しては、ニーズから来るIAR搭載というよりも、付加価値をつけて価格を上げる販売戦略と考えざるを得ません。またそのためにリール重量が増加しているのは歓迎できません。IARが将来性能が向上してラチェット機構が不要になり、リール価格も従来並みか安くなる場合は主流になるでしょうが、もしそうでないならば、大型リールでは淘汰される機能かもしれません。

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