Ambassadeurに使われているギヤは、加工が比較的容易で、組立やすいものを使用しています。それでいながら動作はスムーズで、強度も十分確保されています。スピニングリールに比べて、ベイトキャストリールはシンプルなギヤを採用しているために、軽量、コンパクトを達成しています。ギヤに関する技術全般は、専門サイトで詳細に解説されていますので、ここではAmbassadeur7000に採用されているギヤにフォーカスして解説します。
上の図は、Ambassadeur7000に使用されているギヤの名称を示しています。5つの名称のギヤパーツがあることがわかります。それぞれのギヤの主要スペックを下の表にまとめてみましたので順に解説します。
メインギヤとピニオンギヤは、はす歯を採用し、それ以外は平歯を採用しています。これらは何種類もあるギヤの中でも特にポピュラーなものです。
平歯
ギヤの中で最も基本的なものですのですので、先に解説します。下の写真のスプールピニオン、コグホール、ウォームシャフトギヤをご覧ください。いずれもギヤの歯すじがギヤ軸のと並行になっており、円盤あるいは円筒状の外形形状をしているのが特徴です。ギヤの大きさや形状を表すための主なパラメータは、歯数、モジュールおよび基準円直径というものがあります。簡単に説明しますと、歯数は字の通りギヤの周上に並んだ歯の数です。モジュールとは、ひとつひとつの歯の大きさを表す数値です。基準円直径は、ギヤ同士が噛み合って有効に働く代表径(最外径とは異なります)のことを指します。これらは次の単純な式で表されます。
(基準円直径)=(歯数)×(モジュール)
スプールピニオン(平歯)
コグホイール(平歯)
ウォームシャフトギヤ(平歯)
本来はギヤの寸法を正確に測るための高精度な測定器が必要ですが、歯数を実際に数え、歯車の最外径(歯先円直径)を測ることで、先ほどお話したギヤのパラメータをほぼ知ることができます。そこでさっそく、Ambassadeur7000のギヤを測定してみました。
ところがここで、少し困ったことが起こりました。歯数と歯先円直径からモジュールを計算し、さらに基準円直径を算出しようとしましたが、モジュールがどうしても工業規格と合いません。何度確認しても規格外となります。「もしかして…」と思い、日本の工業規格ではなく、アメリカやイギリスで用いられるインチ規格を適用すると説明が付きました。1インチ(25.4mm)の中の歯数が46あると仮定(ダイヤメトラルピッチ46)すると、モジュールが約0.55となり、ほぼ歯先円直径の測定値とつじつまが合います。ABUの歴史を思い起こすと、第4研究室でお話したようにUSA製のリールを手本に最初のリールを作ったわけですから、歯車の規格がインチ規格であっても不思議はありません。ちなみに、現在の国際規格はメートルを基準としており、日本工業規格もこれに準拠しています。
材質はスプールピニオンとコグホイールがプラスティックです。一般にナイロン系とポリアセタール系がプラスティックギヤの材料としてポピュラーですが、これらのギヤの材質が何であるか見た目だけでは断言できません。機会があれば詳しく調査してみたいと思います。プラスティックギヤは、金属ギヤに比べて強度は劣りますが、成型できるため安く作ることができること、軽量であること、ノングリスでも使えることが特長として挙げられます。
ウォームシャフトギヤは真ちゅうで作られています。真ちゅうは加工が容易で、精度を出しやすく、かつ強度、耐食性に優れるため、ギヤの金属材料としてポピュラーです。ただし、鉄鋼やステンレスよりも重いことと、切削加工でつくられるためにプラスティックよりもコストがかかってしまうため、使用箇所は必要最小限に設計されています。
はす歯ギヤ
ピニオンギヤとメインギヤの写真をご覧ください。真ちゅう製で歯すじが斜めになっていることがおわかりでしょうか。これは歯が斜(はす)になっていることから、はす歯ギヤと呼ばれます。実際は直線の斜めではなく、らせん状になっています。このギヤは平歯と比べて一般に強く、静かな回転をする特徴があります。概念的に説明すると、極めて薄い平歯ギヤを少しずつ回転方向にずらしながら重ねていったものがはす歯ギヤです。回転に伴って断続的に噛み合いが生ずる平歯に対して、無限に薄いギヤが連続的に噛み合いが発生するはす歯の方が滑らかであることが理解できると思います。最もトルクがかかるとともに、巻き上げ感に直結するこれらのギヤは、材質、歯型いずれも理に適った設計です。
ピニオン[左] とメインギヤ[右](はす歯)
ギヤ比
次にギヤ比に話を移します。Amassadeur7000はギヤ比4.1とカタログに表記されていますが、詳しくは(メインギヤ歯数)÷(ピニオンギヤ歯数)=69÷17=4.0588・・・となります。ギヤ比は4とか5など整数にしないところに実は意味があります。たとえばギヤ比が4なら、ピニオンギヤが4回転するとメインギヤが1回転するわけです。ピニオンギヤはメインギヤと常に同じ歯の組み合わせで噛み合うことになり、個々の歯の形状の癖が摩耗を加速してしまう危険性が高くなります。割り切れない歯数の噛み合いにすると、少しずつ噛み合いの組み合わせがずれることになり、摩耗を低減することが可能になります。
ギヤ比が5.3のハイスピードの機種がありますが、ギヤ比を大きくするためには原理的にはメインギヤを大きくし、ピニオンギヤを小さくすれば可能です。しかし、サイドカップの大きさを変えずにメインギヤを大きくすることは自ずと限界がありますし、ピニオンギヤを小さくすることは、正常な歯型を形成するために下限が存在します。そうした制約の中で決まったギヤ比が、現状の製品のスペックとなっています。
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