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メカニズム / 自動二段変速ギヤシステム

Ambassadeur9000CLに搭載されている、自動二段変速ギヤシステムについて解説します。まず二段変速がどう作動するかといいますと、通常の巻き上げではギヤ比4.2:1ですが、ラインが引き出されてドラグが効き始めると、すかさずギヤ比2.5:1の低速になり、高トルクで巻き上げが可能になります。さらにラインが強く引き出されるとドラグが効きます。その状態から次にラインのテンションが弱くなると、自動的にギヤ比4.2:1に戻ります。魚の引きが弱い時は高速低トルクで、引きが強い時は低速高トルクで巻き上げることができるシステムです。
 
二段変速ギヤの構成を写真2に示します。ドライブシャフト上に、高速と低速ドライブギヤが並んでいます。ふたつのギヤはドライブシャフトには直結されておらず、写真では見えませんが、ドラグワッシャの摩擦力でそれぞれ連結されています。つまり、ギヤにかかる力の加減で、どちらのギヤもドライブシャフトに対してすべりが発生できるようになっています。また、スプールシャフトには、高速と低速ピニオンが並んでおり、これらはシャフトに固定されて、すべらないようになっています。

[写真1] ABU Ambassadeur9000CL

[写真2] 自動二段変速ギヤシステム

ラインのテンションが弱い時は、高速ドライブギヤから高速ピニオンにトルクが伝わり、スプールを回転させます。同時に、スプールシャフトを介して低速ピニオンが低速ドライブギヤを回転させます。回転方向は高速ドライブギヤと同じですが、回転スピードは高速ドライブギヤよりも少し早くなります。つまり、低速ドライブギヤはスプール回転には関与せずにすべりながら回っています。実際リールのハンドルを回していると、低速ドライブギヤの摩擦トルクが抵抗になり、少し重く感じられます。
 
ラインのテンションが強くなり、高速ドライブギヤのドラグが作用してすべり出すと、今度は低速ドライブギヤが有効になり、スプールを回転させます。
 
ふたつのドライブギヤの内どちらを有効にするかを決めるのが、低速ドライブギヤに埋め込まれたラチェット機構です。写真3に高速ドライブ時のラチェットを示します。ラチェットのツメの先端が上がっているようすがわかります。写真4には低速ドライブ時のラチェットの状態を示します。この時はラチェットのツメの先端が下がり、ツメ左側の突起に引っ掛かって低速ドライブギヤが時計方向に回ることがわかります。

[写真3] 高速ドライブ時のラチェットの状態

[写真4] 低速ドライブ時のラチェットの状態

二段変速ギヤの作動は、中々イメージしにくいかもしれません。感覚的にお話しますと、実際にある程度リールを分解してハンドルを回した時、ハンドルの回転よりも低速ドライブギヤが先に早く回っていくようすを見ると、ギヤ機構の面白さがわかります。また、スプールを指をで押えてハンドルを回すと、一瞬空走する間隔の後、低速ギヤががっちりかみ合った感触が伝わり、スプールがゆっくりと力強く回り出します。
 
機構学的にみると二段変速ギヤの基本的な機構ですが、ラチェットを低速ドライブギヤにうまく埋め込んで、コンパクトに実装している点がリールとしてすばらしいと思います。
 
最後に、鯉を釣ることを考えた場合、二段変速が必要かどうかは大いに意見が分かれるところだと思われます。私としては、余計な機能を排除してパーツが少ないリールの方が安心して使うことができる気がします。

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