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メカニズム / なぜドラグ調整ができるか?

リール性能を語る上で、ドラグ性能は大きな要因のひとつに挙げられます。しかし、そんな重要な機能であるわりには、インターネットや書籍を探しても詳しく解説しているものがあまり見当たらない状況です。ここでは、Ambassadeur7000のドラグメカニズムを対象に解説していきたいと思います。尚、ベイトキャストリールのドラグメカニズムは、どのメーカーでも基本原理は一緒で、後述のドラグワッシャの材質や枚数の違いがあるのみです。
 

 
上の図をご覧ください。ドラグ調整とは、ハンドルに対するメインギヤの滑り具合の調整ともいえます。それを可能にするために、メインギヤを両側からドラグワッシャで挟み込んでいます。ドラグワッシャとは、摩擦係数が比較的高い摩擦板であり、この機種においては繊維を樹脂で固めた材料を使っています。手で触った感触では、ざらつき感があります。
 
メインギヤの両サイドのドラグワッシャ以外に、さらにもう二枚のドラグワッシャがあり、その二枚の間にはフリクションワッシャが配置されています。フリクションワッシャとは、金属の板であり、これとドラグワッシャとの間、あるいはメインギヤとドラグワッシャとの間の摩擦力によってドラグ力が決まります。
 
各パーツの写真を掲載しますので、上のイラストと見比べて下さい。

メインギヤブッシング

メインギヤ

左:drag washer 右:friction washer

ドラグブッシング

スターホイール

ハンドルナットとルッキングワッシャ

下に示す断面図を用いて、ドラグ機能の説明をします。スターホイールを締め込んだ場合はドラグブッシングが図の左に移動し、スプリングワッシャを押し込みます。
 

 
スプリングワッシャとは、正式には「Disc spring washer」といい、日本語では「皿バネ」と呼びます。真ん中に穴があり、中央が外周に対してくぼんだお皿の形をしていることからこのような名前が付けられていています。スプリングというと、普通はコイル状のばねを思い浮かべる方が多いかと思いますが、コイルスプリングに比べてスプリングワッシャは非常にコンパクトに実装することができ、リールに適したパーツです。詳細については、さらに後ほどお話します。
 
スプリングリングワッシャはフリクションワッシャを押し込みます。図のフリクションワッシャ(2)は小判型の穴があいていて、メインギヤブッシングに対して軸方向には自由に動き、回転方向は規制され、メインギヤブッシングと一緒に回転します。フリクションワッシャ(1)は外周に二か所突起があり、この突起がメインギヤの窪みにはめ込まれることでメインギヤと一緒に回転しますが、軸方向にはわずかに動くことができます。
 
フリクションワッシャ(1)と(2)の間には、図に黒で示されるドラグワッシャが挟み込まれます。つまり、スプリングワッシャによって押し込まれると、そこから左にあるフリクションワッシャ(1)(2)、ドラグワッシャ、メインギヤがすべてお互いに軸方向に押し付けられます。ドラグワッシャは4枚ありますから、1枚あたり表と裏の2面の摩擦面があり、合計で4×2で8面の摩擦面があります。摩擦面を滑らせるための摩擦力(ドラグ力)は、スプリングワッシャの押し付け力(P)と摩擦係数(μ)、そして摩擦面数の掛け算で決まります。
 
ドラグワッシャの枚数が少ないと、摩擦係数のばらつきによって安定したドラグ力が得られなくなりますが、枚数が増えるとばらつきが平均化され、スムーズで安定した、微調整が利くドラグ力を得ることができます。当然、枚数が多いほど高価になります。
 
最後に、再びスプリングワッシャ(以下、皿バネと呼びます)の話をします。皿バネは写真の中の小さめのワッシャ2枚(ブラウンとシルバーに見える)です。皿を向かい合わせて使いますので、少し隙間があいて見えます。リールのメンテナンスをする場合、皿バネの向きを間違えるとまったく違ったドラグ特性になりますので注意しなければなりません。

二種類の皿バネを対向(直列)させている

皿バネの使い方による特性の違い

最後に、再びスプリングワッシャ(以下、皿バネと呼びます)の話をします。皿バネは左の写真の中の小さめのワッシャ2枚(ブラウンとシルバーに見える)です。皿を向かい合わせて使いますので、少し隙間があいて見えます。リールのメンテナンスをする場合、皿バネの向きを間違えるとまったく違ったドラグ特性になりますので注意しなければなりません。
 
グラフは、皿バネの使い方による特性の違いを示しています。横軸は皿バネつぶれ量、縦軸は荷重を示しています。例えば「単一」ではグリーンで示す特性の皿バネを二枚同じ向きで重ねて「並列」で使うと、オレンジ色で示すように同じつぶれ量で単一の二倍の荷重を得ることができます。また、皿バネを向かい合わせて「直列」で使うと、ブルーで示すように、同じつぶれ量で単一の半分の荷重を得ることができます。
 
この特性がドラグの微調整の加減を大きく左右します。並列に比べ直列では同じスターホイールの回転量に対して4分の1のドラグ力の変化が得られ、ドラグ微調整が可能になります。リールのメンテナンスの時に皿バネの向きを間違えて並列にしてしまいますと、スターホイールを少し回しただけで極端にドラグ力が変わるようになってしまいます。
 
尚、説明をわかりやすくするために、これまで同じ皿バネを並列や直列にしたときについてお話しました。また皿バネは板厚、皿の深さ、内外径、材質などによって、非線形ばね(つぶれ量と荷重の特性グラフが曲線を描くもの)にすることも可能です。上の左の写真でもわかるように、実際は板厚と外径が違う皿バネを直列で使い、Ambassadeur7000ならではのドラグ特性にしています。もし機会があれば特性を定量化したいと思いますが、今回はこれでおしまいとします。

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