ABU Ambassadeur 6500TCCM Carpmasterのメカニズムについて、7000シリーズとの比較の観点で解説します。
写真1をご覧ください。
スプールの上に黒いプラスティックのサムガードがあります。これはルアーのキャスティングを前提に作られていますので、リーリングの際に親指をおくためにあります。これは付け外しが簡単にできますので、私はなくても構わないのですが、今のところオリジナルの姿をキープしておきたいために残してします。
右サイドプレートにはクラッチのプッシュボタン、左サイドプレートにはクリックON・OFFのスライドボタンがあります。私はリールを巻き始めるときにクリックをOFFにします。7000はこれが左側面に配置されていて操作しにくいのですが、Carpmasterを使ってからは断然この位置が気に入りました。スプールの中央が細くなり、くぼみが付けられています。これはラインを巻いたときに真ん中が太くならずにきれいになるように配慮しているようです。初期のCarpmasterには見られず、写真の2010年版にはあります。
リールフットは左右のサイドプレートを連結するシャフトに溶接されています。分厚いフットプレートを左右のサイドプレートにダイレクトにカシメて連結した7000に比べると強度的には明らかに弱いわけですが、このリールに巻くライン強度からするとこの構造で十分であることがABUの長い歴史が物語っています。
写真1 Carpmaster(2010年版)
写真2 スプールの白いギヤが左サイドプレートに押しつけられる
次に写真2をご覧ください。
リールを入手すると徹底的に分解して納得してから使う癖が付いていますので、このような状態になります。注目していただきたいのは、スプールとシャフトが別体になっている点です。7000はこれが一体で、シャフトの両端をベアリングで支持し、さらにシャフトを軸方向にメカニカルブレーキで押すことによりブレーキ力をコントロールする機構です。ところがこのリールはシャフトは固定、スプールだけが回転するようになっています。もちろんシャフトとスプールの間にはベアリングが使われています。
なぜこのように別体にしたのかは機構を見ていてもなかなか理解できません。少しでも軽くスプールを回したいから、シャフトを固定にしたのかと思われる方もいるかもしれませんが、そうではないようです。回転運動する物体のイナーシャ(慣性力)は、(重さ)×(直径の二乗)で計算されます。シャフトはスプールに比べ圧倒的に直径が小さく、さらにその二乗の比率になりますので、一緒に回転してもシャフトのイナーシャはスプールに比べ無視できる値になります。
他の理由としては、スプールとシャフトを別体にした方が低コストになることが考えられます。もしそうだとすると、その低コスト化のしわ寄せがどこに出るかが問題です。私の考えではしわ寄せはメカニカルブレーキの摩耗と考えられます。どういうことかと言いますと、シャフトが別体だとスプール自体を片寄せしてブレーキをかけざるを得ません。スプールは左側に押しつけられ、白いプラスティックギヤがサイドプレートの金属に押しつけられて摩擦力を発生します。従って、この方式だとプラスティックギヤの摩耗が起こる可能性があります。ただし、ルアーキャスティングを前提に設計したリールですから、鯉釣りのキャスティング回数程度では問題が出ないのではないかと想像しています。
写真3をご覧ください。
ギヤの歯数は63歯と10歯であり、つまりギヤ比が6.3:1ということがわかります。ピニオンギヤを見ると、歯先がかなり尖がっていること、穴周辺の肉厚が薄くなっていることなどから、6500シリーズのサイドプレートの直径では、ギヤ比を上げるのはこれがほぼ限界と思われます。クラッチ機構の原理は7000シリーズと同等ですが、プラスチック部品や板ばねの採用などで7000シリーズに比べ構成部品を極限まで簡略化し、軽量化と低コスト化を達成しています。
写真3 ドライブギヤの歯数は63歯と10歯
写真4 インスタント・アンチリバース機構
写真4をご覧ください。
メインギヤシャフトを支持しているインスタント・アンチリバース(IAR)機構です。先の写真3でわかるように、このリールは7000シリーズに搭載されているラチェット機構がなく、メインギヤやハンドルの逆転防止はIAR機構だけに頼っています。IARのハウジングはアルミ合金製のサイドカップにカシメられていますので、決して強度が高いわけではありません。鯉の取り込み程度では心配ありませんが、たとえばリールを落してハンドルの逆転方向に強い衝撃などかけないように注意する必要がありそうです。
写真5をご覧ください。
スプールの右サイドにある6点遠心ブレーキです。2点、4点遠心ブレーキではウエイトがスライドするシャフトは金属を使い、ウエイトは円筒形ですが、この6点ブレーキではシャフトはプラスティック化され、ウエイトも円筒から角型に変更になっています。形状の変更はブレーキの機能にはあまり影響がなく、シャフト部品の強度確保と成型のし易さに起因する変更と考えられます。中央にはペアリングが見えています。
写真5 6点式遠心力ブレーキ
写真6 レベリングワインドのカムシャフトにベアリングを採用
写真6をご覧ください。
レベリングワインドのカムシャフトを支持するベアリングです。7000シリーズではここにベアリングは採用されていませんが、このリールは回転部のイナーシャが非常に小さくできていますので、こうした細部の摩擦抵抗にも気を配った設計になっています。
メカニズム全般的の特徴としては、プラスチックの多用、機構の簡略化が挙げられ、このことがリールの軽量・低コストに繋がっていることは明らかです。強度、耐久性面では7000シリーズに劣ると想像されますが、それが実釣に影響するほどの差なのかは、今後私自身が長期間使って検証するしかないと考えています。
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