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鯉の生態 / 視覚

一眼レフカメラのレンズなどでは、「魚眼レンズ」と呼ばれるレンズがあります。通常のレンズと何が違うかといいますと、広角度の範囲を撮影できるという特徴があります。その本家ともいえる実際の魚眼の構造がどうなっているかお話します。
 
下図は魚眼の断面イメージ図です。魚のレンズはほぼ球体状になっており、人間などの動物のレンズである凸レンズ形状とは大きく違います。レンズが球体であるために、図中の3方向からの光(それぞれ赤、青、緑で示す)のどれも網膜に結像しますので、広角度の範囲が見える仕組みになっています。さらに近くを見たり、遠くを見たりするピント調節は、人間の場合は凸レンズ自体を厚くしたり、薄くしたりして調節しますが、魚の場合は球体レンズの形を変えることなく、外に出したり引っ込めたりしてピント調節をしています。レンズを動かすのはレンズを支持しているレンズ筋を使って行います。


魚の眼は一般に左右に分かれて位置していますが、このように個々の眼球は視野角が広いために前方から後方まで見ることができます。しかし左右に分かれている以上、人間のように常に左右の目でひとつのものを見るというわけではなく、左右別々の物を見ていることになります。唯一左右のの眼で同時に見える範囲は正面の約30度の範囲であり、さらに良く見える範囲はというとその半分の15度程度であることがわかっています。
 
餌を見つけた時は、正面を向いて両眼で見ることで距離感を持ちながら捕食します。一方、距離感はつかめなくても敵や危険なものが接近しているのを察知するためには、単眼で広い視野角が有効となります。
 
次に、魚の視力についてお話します。結論からいいますと、魚は近視であることがわかっています。水中は一般には空気中と違って透明度が悪く、元々遠くを見通せるものではありません。一方、捕食の際は餌を近くで確実に見て捕らえる必要があるため、近視は魚にとって都合が良いと考えられます。
 
さらに色彩感覚についてお話ししますが、その前に少し色について解説させていただきます。太陽から放射される光は様々な波長の光を含んでいます。光の場合、波長の単位はナノメートル(nm)といって、1ナノメートル は0.001マイクロメートル(μm)、つまり百万分の一ミリメートルとなっています。 太陽光を波長別に相対エネルギー(最も大きいエネルギーを1とした時の比率)で示したのが左下のグラフです。人間の目で感知できる波長は、約400~760ナノメートルの範囲とされており、この波長帯域の光を「可視光」といいます。これより短い波長の光を「紫外線」、長い波長の光を「赤外線」と呼びます。可視光領域では波長別に色が決まっていますが、その関係を右下の図に示します。人間の可視範囲に比べて、魚の可視範囲は長波長側は一緒ですが、短波長側、つまり紫外線範囲まで見えることがわかります。

 

さて、色彩感覚のお話しに戻します。魚はほとんど色盲だとする学説もあるそうですが、必ずしもそうでもないようです。特にコイ科の魚種は人間に近い色彩感覚を持っていると考えられています。その他にブラックバス、ニジマス、ヤマメ、スズキ、ブルーギル、ボラ、ハゼなども色彩感覚が豊かな魚であることがわかっています。コイ科のうちでも特に鯉、フナ、ハヤは色の識別能力が高いようです。

 

実験例をひとつ挙げてみます。あらかじめ、さまざまな色のスクリーンを通して平等に餌付けしておき、次に餌を出さないでスクリーンが発色するように点灯だけしてみます。最もよくスクリーンに魚が接近していくのは青+緑であり、最も魚に嫌われたのは赤だったそうです。これは条件反射を利用した実験なのは言うまでもありません。はっきりとは断言できませんが、赤は魚にとって警戒色なのかもしれません。鯉は人間に近い色彩感覚であることは既に申し上げましたが、人間にとっても赤は信号機でも使われる警戒色です 。鯉釣りの仕掛けに赤を用いるのは、他の色を用いるよりも何らかの影響が出る可能性が高いと考えるべきでしょう。
 

参考文献
1)「釣りの科学」 森秀人 講談社
2)「目から鱗の落ちる話」 末広恭雄 柏書房
3)「魚との知恵比べ」 川村軍蔵 成山堂書店

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