炭素鋼は鉄(化学記号:Fe)を主成分としていますが、炭素(化学記号:C)比率によって分類されています。もっとも単純な分類は、低炭素鋼(C:0.02~0.3%程度)、中炭素鋼(C:0.3~0.7%程度)、高炭素鋼(C:0.7~2.14%程度)です。JIS(日本工業規格)では、さらに材料の形状(丸棒、パイプ、板、線、アングル、H型鋼など)や鉄と炭素以外の含有成分によって、非常に細かく材料記号とその規格が定められています。
炭素の含有量と特徴について述べてみます。一般に、炭素量が少ないと曲げや切削加工性がよくなります。したがって、一般的な建築構造物や機械部品などに幅広く使われています。一方、炭素量が多いほど、焼き入れしたときに高い硬度が得られるため、加工性は悪くなるものの、刃物のように耐摩耗性が要求されるものや、精密部品に用いられます。
釣りバリは、ハリ先の切れ味と魚を釣り上げるときの強度が大切ですので、炭素量が0.6~0.9%程度の材料が用いられています。具体的には、硬鋼線とよばれるもので、色々な太さの鋼線がロール状で流通しています。SWRH62は炭素が0.59~0.66%、SWRH72は炭素が0.69~0.76%、SWRH82は炭素が0.79~0.86%と規定されています。
このほかに、ハイス鋼やバナジウム合金を使用しているメーカーもあります。ハイス鋼とはハイスピード工具鋼が正式名称で、旋盤で金属を切削するバイト(刃物)に使う材料です。ハイスピードで加工ができることからこのように命名されています。これは、高級包丁やナイフに用いられる材料としても有名で、炭素量は0.8~0.9%程度です。
バナジウムは炭素鋼に少量添加することで、金属の結晶粒を通常よりも緻密にする作用があることが知られており、衝撃などに強い特性を示します。オーナーばりでは、VCN合金と称するものを使用していますが、おそらく材料メーカーに特注している材料だと思われます。ちなみにVCN合金とは、バナジウム(化学記号:V)、炭素(化学記号:C)、ニッケル(化学記号:Ni)を添加した合金とのことです。
以上のことから、釣りバリは一般に高炭素鋼を使用していることが多く、特に「ハイカーボン」と表示されていなくても、金属学的にみて炭素量は多いものばかり使われています。
炭素量が多いほど焼き入れしたときの硬度が高いことはすでにお話しましたが、硬度が上がる一方で、脆くなる(折れやすい)といった困った特徴も示します。これを解決するために、「焼き戻し」という熱処理を施しています。
次回は、「焼き戻し」も含めて、釣りバリの製造工程についてお話します。