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「和竿風糸巻き竿」製作記

このコンテンツでは、リールにラインを巻き替える際に使用するリール取り付け竿を、和竿クリエイターである並継のこぶちゃんに作って頂いた顛末を紹介します。突然のお願いにもかかわらず、製作を快諾してくださったこぶちゃんに、この場をお借りしてお礼申し上げます。


2023/3/12 LINE

miO
ご相談です。リールにラインを巻く時に使うためのリールシート付きショートロッドを作っていただくことはできないでしょうか。もちろん和竿風のがいいです。 中古釣具を買ってきて切って使おうかとも考えましたが、なんか工芸的なのがいいなと思いました。完成は秋のオフ会くらいまでで結構です。ご検討ください。
 
並継のこぶ
家にある素材で考えてみます!リールの足の長さだけ教えて下さい。
 
miO
62から64mmです。アンバサダー6000と7000番のです。
 
並継のこぶ
了解です!糸巻き専用ですか?というと元竿だけ?リールシートとガイド1個?
 
miO
糸巻き専用ですので、元竿のショート版です。ガイドはひとつあった方がいいかもしれませんね。リールとガイドの間に握るだけのスペースがあればいいです。
 
並継のこぶ
了解しました。凝ったのを作ってみますね!


2023.03.13 LINE

並継のこぶ
こんばんは。布袋竹のいい素材が残っていましたので、それで作ってみます。仕上りは2尺5寸位の予定です。完成をお楽しみに
写真は竿尻(握り)の部分になります!

miO
なんか凄い素材がありましたね。楽しみに待ってます♪


2023.04.21 LINE

並継のこぶ
ご注文の品、順調に作業進んでいます!下地塗り→螺鈿(らでん)貼り→金粉乗せ 現在の進捗です。このあと、黒漆を数回乗せてからの研出しになります。黒地に、螺鈿と金が上手く出るといいのですが… こればかりは、やってみないとわからないところなんです!完成をお楽しみに!
 
miO
楽しみ!! よろしくお願いします


2023.06.17 LINE

並継のこぶ
ご注文のお品ですが、研ぎ出したところ螺鈿の出方が気に入らなかったので、一度地塗りまで削って螺鈿の置き直しをしています。
 
miO
あらー、こだわっていただいてありがとうございます。完成はいつでもいいのでお願いします。


2023.10.17 LINE

並継のこぶ
こんにちは!注文の糸巻き竿はほぼ完成しているのですが、最後の覆輪入れを残すばかりです!これがとても難しく、集中して息を止めて(エアコンも止めて)なんて感じの作業なんです。あと一工程!頑張ります!


2023.11.1 霞ヶ浦オフ会初日

待ちに待ったオフ会の初日。先に現地入りしているこぶちゃんが迎えてくれました。挨拶早々、立派な竿袋に入った糸巻き竿を車から取り出してきました。竿袋もこぶちゃんのお手製とのことで、私はここまで作ってくれるとは全く想定していませんでした。
 

まずは釣り座をセットし、一段落したところで改めて今回の竿作りについて詳しくお聞きすることにしました。(以下、こぶちゃん談)
 

1.竿の素材

この素材は布袋竹(ほていちく)といい、和竿に最もよく使われる竹です。節が高く、ゴツゴツとした肌感で男性的な竹と言われています。この素材でテンヤ真鯛の手バネ竿を作る予定で切り組みしたものですが、今回の糸巻き竿に向いていたので使うことにしました。節にある芽の形はすでに整えていましたので、その後の工程からお話しします。
 

布袋竹特有の美しい節目

2.下地塗り

下地は黒漆をベースとして塗り、次に「山立て」という塗り方で、凸凹になるように黒漆を塗って固めます。山立てはヘチマを使って点々と漆を乗せて行います。この凸凹が後に柄として出てきます。
 

3.螺鈿(らでん)・金粉

螺鈿とは貝飾りのことです。山立てした後に貝粉を乗せ、さらに金粉を乗せて全体に黒漆を数回塗ります。
 

4.研ぎ出し

黒漆の上から細かいペーパーで磨きながら削っていきます。山立てでできた凸に乗った貝や金粉は模様として現れ、凹の部分は黒漆が残ります。イメージ通りの模様が出てくるかどうかは、研ぎ出してみないとわかりません。今回の竿は1回目の研ぎ出しで模様が気に入らなかったので、下地塗りからやり直しました。
 

5.籐巻き

装飾のために今回はワンポイントで籐巻きをしました。
 

6.本透明漆塗り

竿全体に本透明の漆を塗ります。今回は10回くらい重ね塗りしたので、しっとりと落ち着いた光沢と手に馴染む表面に仕上がりました。
 

芸術的な研ぎ出し模様と落ち着いた籐巻き

7.金具付け

ガイドとリールシートは糸を巻いて取り付け、糸の上に黒漆を数回塗りました。
 

8.覆輪(ふくりん)入れ

覆輪とは黒漆の端にアクセントとして朱の漆で入れる線のことです。細い糸に朱を吸わせて竿に当て、竿を回して描くため、息を止めて集中し一気に覆輪を入れます。もちろんエアコンも止めます。昔、名人と言われた竿師たちは、糸ではなくネズミの髭を使ったそうです。
 

ガイドと覆輪

最後に竿袋ですが、ちょうど良い生地があったため、自分で作ってみました。細かいところは見ないでください(笑)竿袋で難しいのは、紐のところでした。
 


編集後記(miO)

元々リールにラインを巻く時は、長年リール自体を持って巻いていました。それでも大きな問題はないのですが、ある時ふと「実際の竿となるべく同じ条件で巻いた方がラインが綺麗に巻かれるんじゃね?」と思い、中古釣具屋に行きました。ジャンク品を買って、適当に切ってリールを取り付ける竿を作ろうと考えたのでした。ところがその店内で、「せっかく作るなら、綺麗でいつまでも使える竿がいいな」と思いそのまま帰宅しました。長く好きでいられる道具ってなんだろう?→工芸品みたいな美しさと機能を備えたもの→竿なら和竿かな→こぶちゃん・・・と辿り着きました(こぶちゃんごめんね!)
そんなわけで美しい和竿が出来上がったわけですが、使ってみて気がついたのは、この竿の重心はリールシートの真ん中にあったのです。ですから、どのリールをつけても重心が動かない。リールを巻く時、とても安定感があります。美しさだけではなかったのですね。こんなところにも和竿クリエイターのこだわりを感じることができました。

(おわり)
 

和竿技法の詳細はこちらをご覧ください:和竿 隅田川スペシャルの製作

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