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釣りの研究室
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スプールフリー

初版 2010.3.7

キャスティングの際、Ambassadeur 7000では、右サイドプレートにあるボタンを押すと「カチッ」と音を立ててロックされ、スプールがフリーになります。そこからハンドルを回すと、「カシャン」とボタンが自動で戻り(いわゆるオートリターンクラッチ)、再びスプールはハンドルの回転に連動し、ラインの巻き取り方向にのみ回転するようになります。
この一見単純に見える機能が、どのような仕組みで実現されているのか。今回はその仕組みを少し掘り下げてみたいと思います。
 

右サイドプレート内部の構造

 

 
写真は、右サイドプレート内部の様子です。このプレートはハンドル部も含めた一体型のモジュールとなっており、ローレットネジ3本を緩めるだけで、メインフレームから簡単に取り外すことができます。ハンドルを外し、キャップを開けると、写真のような状態になります。
 
この中には、メインギヤとピニオンギヤ、プッシュ式のスプールフリー機構、そしてオートリターンクラッチ機構が巧みに組み込まれています。
 
Ambassadeurは、機構が比較的シンプルで、内部を見ればすぐに理解できる構造が多いのですが、このクラッチ部に関しては、も初めて見たときはすぐには理解できませんでした。しかし、パーツ一つひとつの形状や機能の意味をじっくり観察するうちに、設計者の意図が手に取るように伝わってきて、今ではのお気に入りの部分になっています。
 

クラッチ機構の動作原理

 

スプールドライブ時のクラッチの状態

 
まずはクラッチの基本的な動作原理からご説明しましょう。図は、通常の巻き取り状態を示しています。
 
プレスアームは、左右方向にスライドできる構造になっており、その先端がクラッチアームの傾斜部分に接するように配置されています(青丸A1)。クラッチアームは、左側がピンで支持され、右側はピニオンギヤの溝にセットされています。左のピンを支点に、右側がスプールシャフトに沿って上下動する構造です。
 
クラッチアーム中央にはスプリングが仕込まれており、常に下方向、すなわちピニオンがスプールと接続された状態(青丸A2)を保つように働いています。
 

プレスアームによるクラッチ解除

 

スプールフリー時のクラッチの状態

 
続いて、クラッチを切る動作を見てみましょう。図はスプールフリーの状態を示しています。
 
プレスアームを押し込むと、その先端がクラッチアームの傾斜に乗り上げて(青丸B1)、ピニオンを持ち上げることでスプールから切り離されます(青丸B2)。なお、ピニオンとメインギヤは幅に余裕があるため、ピニオンが上下してもギヤの噛み合いには影響しません。
 

「カチッ」とロックされる仕組み

スプールドライブ時のロックアームの状態

スプールフリー時のロックアームの状態

次に、プレスアームを押し込んだ際の「カチッ」としたロックの仕組みについてです。写真は、通常の巻き取り状態と、プレスアームが押されてロックされた状態を示しています。
 
ここで活躍するのが、蟹の腕のような形状をした一対のロックアームと、プレスアームに取り付けられた2本のロックピンです。
 
プレスアームが押されていない状態では、ロックアームの先端がロックピンに接しています。ロックアームは、それぞれに付いたスプリングの力で常に内側へ閉じようとしています。その回転軸は十字線で示したカシメ部分です。
 
プレスアームを押し込むと、ロックアームが一度ロックピンから外れ、内側に閉じることで、ロックピンを挟み込むような状態になります。このとき、ロックアームのアール部分がスプリングを支えるピンに接触し、「カチッ」と音が鳴るわけです。
 
プレスアームには常に左方向へ戻ろうとするスプリング力が働いており、ロックアームがこれをしっかり受け止めてロックを維持します。
 

ロック解除の仕組み(オートリターンクラッチ)

最後に、ハンドルを回すことでクラッチが自動的に解除される仕組みをご説明します。

 

 
メインギヤの裏側にはラチェットが取り付けられており、よく観察すると2か所に小さな突起が設けられています。この突起がロック解除のカギを握ります。
 

オートリターンクラッチの仕組み

 
メインギヤが回転すると、この突起が順にロックアームの先端(白矢印部分)に接触して押し広げることで、ロックが解除されます。蟹の腕のようなロックアームが開き、ロックピンが外れ、スプリング力によってプレスアームが左に戻るという仕組みです。
 

おわりに

このロックアームは、一見すると不思議な曲線形状をしていますが、機構学的に見れば非常に理にかなった設計となっています。この曲線を眺めていると、かのオーケ・ムルヴァルが定規とコンパスを手に曲線を描いている姿が目に浮かぶようです。


 
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