ヨーロッパの陶芸
《要約》
- エミール・ガレはガラス工芸で有名だが、陶芸作品も多数残しており、日本文化、とくに北斎漫画から大きな影響を受けた。
- 陶器作品には鯉や蛙を描いたものがあり、擬人化やユーモアを交えた表現が特徴的である。
- ジャポニスムとアール・ヌーヴォーの潮流の中でガレは国際的に活躍し、万国博覧会で数々の賞を受けた。
- ガレ没後、陶器の製作は停止され、美術史的にも貴重な作品群となっている。
エミール・ガレと陶芸の世界
エミール・ガレといえば、誰もがまず思い浮かべるのはガラス工芸でしょう。しかし、彼は陶芸の分野にも意欲的に取り組み、数多くの作品を残しています。
2020年には、茨城県陶芸美術館において企画展「ガレの陶芸」が開催され、陶芸家としてのガレの一面が改めて注目されました。今回は、その展示品の中から、鯉にまつわる作品を中心にご紹介いたします。
ナンシーに生まれ、芸術の素地を育む
エミール・ガレ(1846–1904)
エミール・ガレは1846年、フランス北東部の町ナンシーに生まれました。
父・シャルルはもともとパリ出身の磁器絵付け職人でしたが、妻ファニーの実家の事業を継いでからは、高級ガラスや陶磁器を扱う「ガレ商会」を営み、これを大きく発展させました。
やがてその技術と美意識が認められ、皇帝御用達の名誉を得て、ナポレオン3世の邸宅にも数々のガラス製品を納めるようになります。
留学と万国博覧会を通じた感性の開花
1865年、若き日のガレはドイツに留学し、デッサンやデザインの技術を学びました。
1867年に開催されたパリ万国博覧会にあわせて半年間パリに滞在し、芸術と産業の動向に触れます。この博覧会では、父シャルルがガラス部門で佳作を受賞しています。
なお、この万博には日本からも江戸幕府をはじめ、薩摩藩・佐賀藩が参加し、陶磁器や漆器、金工品などを数多く出品。これがのちに「ジャポニスム」へとつながる、重要な文化交流のきっかけとなりました。
日本文化の影響を受けた陶芸作品
1877年、父から事業を引き継いだガレは、翌年のパリ万国博覧会にて陶器とガラスの両部門で作品を発表します。
陶器では「日本の夜」シリーズ、ガラスでは「月光色ガラス」シリーズを出品し、いずれも葛飾北斎の『北斎漫画』に見られる図柄をモチーフとしており、日本の美意識が随所に感じられます。
ジャポニスムとアール・ヌーヴォーの旗手
1880年代から90年代にかけて、北斎などの日本美術が欧州の芸術界に大きな影響を与え、「ジャポニスム」という潮流が生まれました。
この潮流はさらに広がりを見せ、「アール・ヌーヴォー」として結実。フランスではその代表的な芸術運動として広く知られるようになります。エミール・ガレはまさにその中心人物の一人として、国際的な評価を得ることになります。
栄光と晩年
1889年のパリ万国博覧会では、ガラス部門でグランプリ、陶芸部門で金賞、家具部門で銀賞という輝かしい成果をおさめました。
さらに1900年の同博覧会では、ガラスと家具の両部門で再びグランプリを獲得し、その名声は不動のものとなりました。
1904年、ガレは白血病のため58歳で逝去。妻と娘婿が1931年まで事業を引き継ぎましたが、陶器の製作はガレの没後には一切行われることはありませんでした。
鯉の姿にみる北斎の影響
「鉢 魚文」1864 - 1904
「鉢 魚文」1864 - 1904
ここに紹介する二つの青色単彩釉の鉢は対をなす作品であり、水の流れや水草、小魚、そして主役である鯉が活き活きと描かれています。特に、魚体を逆S字にくねらせた鯉の姿には、北斎漫画の「魚かん観世音」に見られる鯉の描写と共通する躍動感が感じられます。鉢そのものの造形は西洋風のデザインを保ちつつ、日本の美術との融合が見事に表現された陶芸作品といえるでしょう。
ユーモラスな蛙と鯉の競演
《大鉢 蛙》1883–1904
ガレの作品には昆虫や動物など、生き物たちがしばしば擬人化され、ユニークな表現がなされているものが見られます。
この「大鉢 蛙」では、貝にまたがった蛙が、まるで馬車を御す御者のように、鯉の口へと伸びる綱を握っています。このようなユーモラスな構図もまた、『北斎漫画』などに見られる日本美術からの影響が色濃く感じられる一品です。
《参考文献》
1)「ガレの陶芸」茨城県陶芸美術館 2020年企画展 展示資料