浮世絵(1)
初版 2008.7.27
《要約》
- 明治期の浮世絵「大川ばた百本杭」では、釣り糸にかかった鯉と玉網の構図から、釣りの臨場感が巧みに描かれている。
- 「百本杭」は隅田川左岸の釣り名所で、防波の乱杭が特徴の地であった。
- 小林清親の作品では、魚体を描かずに緊張感と釣りの瞬間を巧みに表現している。
- 汽水域であるこの地域ではクロダイやスズキも釣れるが、構図からは鯉が連想される。
東京名所四十八景 大川ばた百本杭 昇斎一景
この作品は明治4年ごろに描かれたとされています。力強い体躯の鯉の口から一本の釣り糸が伸び、すぐそばには取り込みを狙う玉網が差し出されており、臨場感にあふれた一枚です。
「大川ばた百本杭」とは、現在の東京都墨田区横綱一丁目、隅田川左岸にあたる場所で、当時は防波のために無数の乱杭が打ち込まれていました。このあたり一帯は、「百本杭」あるいは「千本杭」と俗称され、江戸・明治期においては釣り人にとって名の知れた好釣り場であったといいます。
出典)「浮世絵 一竿百趣」金森直治 つり人社 p121
武蔵百景之内 大川端百本くい 小林清親
先にご紹介した昇斎一景の作品と非常に近い題材ながら、より緊張感が際立つのがこの小林清親による明治18年の作品です。
無数に立ち並ぶ杭の間を、玉浮きを付けた道糸が水面を切るように走り、竿先は力強く水中に引き込まれています。尾鰭の先がわずかに水面にのぞき、玉網が今まさに届かんと目一杯差し伸べられている―。魚体そのものは描かれていないのに、釣り人の胸の高鳴りが聞こえてきそうな、そんな一枚です。
この百本杭周辺は、海水と淡水の交じり合う汽水域にあたり、クロダイやスズキも釣れると伝わっています。ただ、この絵の構図からは、私はどうしても堂々たる良型の鯉を思い描いてしまうのです。
出典)「浮世絵 一竿百趣」金森直治 つり人社 p113
《参考文献》
1)「浮世絵 一竿百趣」 金森直治 つり人社