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鯉図いろいろ

初版 2005.11.27|改版 2026.1.4

《要約》

  • 柴田是真の鯉図では、滝登りに失敗する鯉をユーモラスに描き、既成概念を打破した自由な表現が光る。
  • 雪村の花鳥図には、力強く大きく描かれた鯉が印象的で、作者の鯉への深い思い入れがうかがえる。
  • 伊万里焼の鉢は、ヒゲのない愛らしいイラスト風の鯉を描き、器としての楽しさを演出している。

伝統的な滝登り図や仙人図以外にも、優れた鯉図がいくつか残されていますので、今回はその中から数点をご紹介いたします。
 

滝登りに失敗した鯉 ― 柴田是真の遊び心

まずご覧いただきたいのは、柴田是真による「滝に登鯉図」です。滝登りに挑戦したものの、見事に失敗して跳ね返された鯉の姿が描かれています。
鯉を寄せつけないほどの激しい滝の水勢と、歯が立たない鯉との対比が実にユーモラスです。鯉といえば滝登り成功を描くものという常識の裏をかいた、珍しい構図といえるでしょう。
 

滝に登鯉図
出典:「日本絵画のあそび」榊原悟 岩波新書 p.90

 
柴田是真は、幕末から明治にかけて活躍した画家です。既成概念にとらわれない、意表を突く作品を好んだ画家として知られています。たとえば代表作「鐘馗と小鬼」では、鐘馗の眼力に恐れをなした小鬼たちが、画面の枠を越えて逃げていく様子が描かれています。
絵は枠の中に収めるものという従来の発想を超え、自由奔放な表現を追求したその姿勢は、先の「滝に登鯉図」にもよく表れていると感じます。
 

鯉を力強く描いた雪村の「花鳥図」

次にご紹介するのは、雪村の「花鳥図」に描かれた鯉の部分です。
この図には鯉のほかに梅の木や鷺が描かれていますが、なかでも鯉が非常に大きく、力強く描かれている点が印象的です。
雪村は、鯉を好んで描いた画家の一人であったとされます。身近な存在である淡水魚の王者に対し、特別な思い入れがあったのかもしれません。その迫力ある筆致から、鯉に寄せる深い敬意が感じ取れます。
 

雪村周継「花鳥図」
出典)「 水墨画発見」 山下裕二編 平凡社 p61

 

イラスト風の鯉 ― 伊万里焼のユーモア

最後に掲載した皿は、伊万里焼の作品です。
鯉と矢羽根が描かれていますが、成功と幸福の願いが込められているものと推測できます。
私が注目したのは、鯉が非常にイラスト的に描かれている点です。鯉特有のヒゲも描かれておらず、ぱっと見ただけでは鯛と間違えてしまいそうな姿です。その愛らしさにより、食卓を楽しく彩る器としても親しまれたのではないでしょうか。
 

染付け鯉と矢羽根にみじん唐草文輪花鉢
出典)「古伊万里 小皿・豆皿・小鉢1000」講談社 p111

 


参考文献
1)「日本絵画のあそび」 榊原悟 岩波新書
2)「別冊太陽 水墨画発見」 山下裕二編 平凡社
3)「古伊万里 小皿・豆皿・小鉢 1000」 講談社