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鯉の名前

初版 2005.11.27

《要約》

  • 学名と語源:鯉の学名「Cyprinus carpio」はキプロス島に由来し、多産の象徴とされるが、実際には特に多産ではない。
  • 「コイ」の由来:「恋」に由来する説や、淡水魚の王「高位(こうい)」からの転訛説がある。
  • 漢字の成り立ちと地方名:「鯉」は側線鱗の数と「一里=36町」から魚偏に「里」を当てた説があり、地方名も多様。
  • 女房詞での呼称:大奥では「こもじ」と呼ばれ、他の魚も独特な呼び方があった(例:おかか=カツオブシ)。

鯉の学名について

鯉の学名は「Cyprinus carpio(シプリヌス・カルピオ)」といいます。「シプリヌス」とは、愛と多産の女神ヴィーナスが生まれたとされる「サイプラス島(現キプロス島)」に由来しているそうです。鯉は数十万個の卵を産むため、多産の象徴とされたのかもしれませんが、実際には魚類の中で特に多産というわけではないようです。
 

「コイ」という呼び名の由来

「コイ」の語源にはいくつかの説がありますが、代表的なものをふたつご紹介します。
 
「恋」に由来する説
「コイ」は「恋」に通じるとされており、大正から昭和初期にかけて編纂された国語辞典『大言海』には「コヒ(コイ)は恋の義」と記されています。また、日本最初の五十音順国語辞典『和訓栞(わくんのしおり)』にも「景行記にその旨見えたり」との記載があるそうです。景行記については、「日本書紀」の記述をご覧いただければと思います。
 
「高位」に由来する説
日本では古来より、海水魚の王を「大位(たいい)」、淡水魚の王を「高位(こうい)」と呼んでいたそうです。これが転じて「タイ」「コイ」となったという説もあります。
 

「鯉」という漢字の成り立ち

中国では、鯉を「六々鱗(ろくろくりん)」と呼ぶことがありました。これは側線鱗の数が平均36枚であることに由来します。明代の本草学者・李時珍(1518~1593)が著した『本草綱目』には、「その脇、鱗一道。頭より尾に至る。大小なく皆三十六鱗」とあります。
この「36」という数が、「一里=36町」にも通じることから、魚偏に「里」の字を組み合わせて「鯉」という漢字ができたという説もあるようですが、真偽のほどは定かではありません。
 

鯉の地方名

日本各地で鯉の呼び名はさまざまです。代表的な地方名を以下に記します。

  • 久留米:アカクチ
  • 琵琶湖:オオミゴイ、カワスジ
  • 沖縄:クイユ、クーイユ、クーユー
  • 長野・佐久地方:サクゴイ
  • 筑後川流域:ナメ、ナメイ、ナメリ
  • 滋賀県:ヤマト、ヤマトゴイ
  • 野生や一般的な呼称:ジゴイ、ノゴイ、マゴイ

 
また、琵琶湖の湖北を拠点に鯉釣りをされているO様より、興味深い情報をお寄せいただきました。以下に引用させていただきます。

滋賀の中でも呼び名はいろいろあるようで、正確なことはわかりませんが、放流養殖ゴイは「養殖ゴイ・やまとゴイ・やまと」、天然ゴイは南湖方面で「ゴンボ・野ゴイ・地ゴイ」、北湖方面では「トンボ・マゴイ・地ゴイ」などと呼ばれることが多いようです。

 

江戸城大奥での鯉の呼び名

江戸時代、御所や大奥で用いられた女性特有の言葉「女房詞(にょうぼうことば)」では、魚介類の呼び名も一般とは異なっていました。鯉は文字詞の形式で「こもじ」と呼ばれていたそうです。以下に、他の魚介類の呼び名もあわせてご紹介します。

  • タイ:おひら
  • ハマグリ:おはま
  • イカ:いもじ
  • エビ:えもじ
  • タコ:たもじ
  • カズノコ:かづかづ
  • スルメ:するする
  • カツオブシ:からから、よこかみ、おかか、おかつ
  • サケ:あかおまな
  • ハモ:ながいおまな
  • ウナギ:う
  • イワシ:むらさき、おむら
  • タラ:ゆき
  • フナ:やまぶき
  • ニシン:ゆかりのつき
  • カレイ:ひらめ、かため

「おかか」が女房詞だったとは、私自身も最近知って驚きました。また、カレイのことを「ひらめ」と呼んでいたという記録がある一方、当時のヒラメは何と呼ばれていたのか、少々気になるところです。
 


参考文献
1)加福竹一郎『魚の社会学』共立出版
2)芳賀故城『コイの釣り方』金園社
3)有薗眞琴『お魚の分化誌』舵社
4)長辻象平『釣魚をめぐる博物誌』角川書店
5)末広恭雄『魚の博物事典』講談社