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淡水魚の浸透圧

初版 2005.11.27

《要約》

  • 浸透圧とは、半透膜を隔てて低濃度から高濃度の溶液へ溶媒が移動し、圧力差が生じる現象。
  • 鯉は浸透圧により体内に水が入り続けるため大量の尿で水分を排出し、塩分は再吸収や食物で補う。
  • 海水魚は水分を失いやすく、海水を飲んで腸で吸収し、余分な塩分はエラから排出する。
  • 川と海を行き来する魚は、環境に応じて浸透圧調節の仕組みを切り替える能力を持つ。

「浸透圧」という言葉、私にとっては、学生時代の理科で習ったきり、長いあいだ忘れていた言葉のひとつでした。ところが数十年後、まさか趣味の釣りの世界でまたこの言葉と再会するとは思いませんでした。
では、その「浸透圧」とは、いったい何なのでしょうか。
 

浸透圧とは

たとえば、低濃度の水(真水)と高濃度の食塩水を、半透膜で仕切ったU字管を想像してください。しばらくすると、真水側の水が食塩水側へと移動し、食塩水のほうの液面が高くなります。このときの圧力差のことを「浸透圧」と呼びます。
半透膜というのは、特定の小さな分子やイオンだけを通す、分子サイズのフィルターのようなものです。教科書などでよく見かけるこのU字管の実験では、半透膜としてセロハンが使われることもあります。
 

 

浸透圧と鯉の体の仕組み

さて、なぜこのような話をするのかというと、魚にとって浸透圧は生命と直結するほど重要なものだからです。
鯉の体液は、例えるなら「食塩水」、川の淡水は「真水」と考えてみてください。浸透圧の働きで、鯉の体内には常に淡水が入り込んできます。このままでは水ぶくれになってしまいますので、鯉は大量の尿として水分を排出し、体内の水分バランスを保っているのです。
しかも、尿と一緒にナトリウムイオン(塩分)も失われてしまいますから、それを膀胱で再吸収したり、食べ物から補ったりして調整しています。さらに、エラの「塩類細胞」でも、ナトリウムイオンを取り込む仕組みがあります。このとき活躍するのが「プロトンATPアーゼ」という酵素です。
 

海水魚と回遊魚の浸透圧調節

ちなみに、海水魚は鯉とは真逆の環境にいます。周囲の海水のほうが濃いため、体内の水分が外に出てしまうのです。ですから、海水魚は海水をどんどん飲み、腸で水分を吸収します。その代わり、尿はほんのわずかしか出しません。
一方で、ナトリウムイオンが体内に過剰になりがちなので、今度はエラなどからナトリウムイオンを外へ排出して調整しています。こちらにも塩類細胞が関わっています。
 
さらに、川と海を行き来する魚(サケなど)は、水域の変化に合わせて、淡水魚のしくみと海水魚のしくみを切り替えられるようになっているのだそうです。まさに自然の妙ですね。
 


参考文献
1)『旬の魚はなぜうまい』 岩井保(岩波書店)
2)『釣り魚博士』 岩井保(保育社)