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釣りの研究室
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味覚

初版 2005.11.27

《要約》

  • 魚は味蕾という器官を使って、口や皮膚、ひげなど全身で味を感知し、人間よりも繊細な味覚を持つことがある。
  • 特に鯉は塩味や二酸化炭素、アルカリ性物質に敏感で、味で餌と異物を即座に識別する。
  • 味蕾は触覚とも連携しており、視界の効かない環境でも餌を探すのに役立つ。
  • 合成洗剤による水質汚染は魚の味覚を麻痺させるため、生活排水の管理が重要である。

人間と同じように、魚にも味覚があります。その味を感じる器官は「味蕾(みらい)」と呼ばれ、皮膚の表面組織に埋め込まれた小さな器官です。名前のとおり、花のつぼみのような形をしており、ここで受けた味の刺激は神経を伝って脳の味覚中枢に送られ、「味」として認識されます。
 
魚の味蕾は、口の中の天井部分や唇、エラの上などに多く見られます。また、鯉やドジョウ、ナマズのように口ひげのある魚では、そのひげの表面にも味蕾が多数存在します。さらに、ヒレを含む体の皮膚にも広く分布しています。人間は主に舌で味を感じますので、魚が体のあちこちで味を感じていると聞くと不思議に思われるかもしれませんが、水の中で暮らす魚にとっては、全身で味を感じ取ることは理にかなっているといえるでしょう。
 
口ひげの味蕾は、味覚だけでなく触覚にも関係しています。視界がきかない濁った水の中でも、ひげを使って水底にいるイトミミズや水生昆虫、さらには藻などの植物性のエサを探し出すことができます。
 

鯉の口内天井部の味蕾
出典)「釣り魚博士」 岩井保 保育社 p133 より

 

鯉の口ひげの断面
出典)「釣り魚博士」 岩井保 保育社 p134 より

 
鯉の味蕾に関する研究によれば、塩味・酸味・苦味・甘味という基本的な四つの味を感知できることがわかっています。とくに塩味に対しては、人間では感じられないほどごく薄い濃度でも、確実に反応するそうです。また、人間には味のない二酸化炭素にも敏感に反応する能力を持っており、これは鯉のウキブクロ内に含まれるガスの調整と関係していると考えられています。
 
実験によると、鯉が特に強く反応したのはサナギの抽出液、牛乳、そして人間の唾液です。唾液には澱粉を糖に分解する「プチアリン」という酵素が含まれており、これはアルカリ性です。二酸化炭素もまたアルカリ性の性質を持つため、鯉はアルカリ性物質に対して特に敏感だと考えられます。
 
なお、スウェーデンの鯉は日本の鯉と比べて、甘味と酸味に対しては敏感で、苦味にはやや鈍感だという報告もあります。鯉の種類によっても味覚に若干の違いが見られるようです。
 
こうしてみると、魚にも人間と同様に優れた味覚があることがおわかりいただけるかと思います。ただし、人間のように「味わって」食べているわけではありません。魚は口に入ったものを瞬時に識別し、エサか異物かを判断します。たとえば鯉の場合、エサの摂取速度は時速0.5kmですが、不要と判断したものを吐き出すスピードは時速3kmにもなるそうです。まさに一瞬の判断です。
 
最後に、水質汚染と魚の味覚について触れておきます。ある実験では、合成洗剤が混ざった水でナマズを飼育したところ、口ひげの味蕾が徐々に破壊され、やがて好んでいたエキスにもまったく反応しなくなってしまいました。たとえば、合成洗剤の濃度が0.5ppmでも20日ほどで味覚が麻痺し、10ppmであれば、わずか3時間あまりでその機能が失われたといいます。
 
ちなみに「1ppm」とは、水1トン(1立方メートル)に対して、わずか1グラムの物質が含まれている状態を指します。その半分の0.5ppmであっても影響が出るということは、生活排水が直接河川や湖沼に流れ込むことで、魚たちにとっては重大な被害となるのです。
 
私たち人間の生活においても、合成洗剤の使用量をなるべく控えめにし、水環境への負荷を軽くする努力が求められます。
 


《参考文献》
1)『釣り魚博士』 岩井 保 保育社
2)『釣りの科学』 森 秀人 講談社
3)『魚の社会学』 加福 竹一郎 共立出版
4)『魚は夢を見ているか』 鈴木 克美 丸善