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釣りの研究室
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視覚

初版 2005.11.27

《要約》

  • 魚の眼は球体レンズで広角視野を持ち、ピント調節はレンズを前後に動かすことで行う。左右の目で別々の対象を見るが、正面30度のみ両眼視が可能。
  • 魚は近視で、水中環境に適応している。捕食には近くを見る能力、警戒には広い視野が役立つ。
  • 魚の多くは紫外線まで見える視覚を持ち、コイ科など一部は人間に近い色彩感覚を有する。
  • 実験では青や緑に魚がよく反応し、赤は警戒色とされる可能性がある。釣り仕掛けの色にも影響か。

一眼レフカメラのレンズには、「魚眼レンズ」と呼ばれるものがあります。通常のレンズと何が違うのかといいますと、広い角度の範囲を撮影できるという特徴があります。今回は、その元になっている実際の魚の目の構造についてお話ししてみたいと思います。
 
下図は、魚の眼の断面をイメージした図です。魚のレンズは、ほぼ球体の形をしており、人間などの動物のレンズ(凸レンズ)とは大きく異なります。レンズが球体であることにより、図中に赤・青・緑で示した3方向からの光のいずれも網膜に結像するため、広い範囲が見える仕組みになっています。
 
また、近くや遠くにピントを合わせる調節の仕方も、人間とは異なります。人間はレンズそのものの厚みを変えて調節しますが、魚の場合は球体のレンズの形を変えず、前後に動かしてピントを合わせています。この動きは、レンズを支えている「レンズ筋」によって行われます。

魚の目は一般に左右に分かれて配置されており、個々の眼球の視野が広いため、前方から後方まで見渡すことができます。ただし、人間のように常に両目で同じものを見るわけではなく、それぞれ別々の対象を見ていることになります。両眼で同時に見ることができるのは、正面の約30度の範囲であり、その中でも特によく見えるのは、さらにその半分の15度程度だとわかっています。
 
餌を見つけたときには、魚は正面を向いて両眼で見ることで距離感をつかみ、正確に捕食します。一方で、敵などの危険を察知するには、片目で広範囲を見渡せるこの視野の広さが有効です。
次に、魚の視力について触れてみましょう。結論から申し上げますと、魚は近視であることが知られています。水中は空気中と違って透明度が低く、もともと遠くまで見渡せる環境ではありません。そのため、捕食時に近くの餌をはっきりと見るための近視は、魚にとって都合の良い特性と言えるでしょう。
 
続いて、色彩感覚についてご説明する前に、まず色に関する基礎的なお話を少しさせていただきます。太陽から放射される光には、さまざまな波長の光が含まれています。光の波長はナノメートル(nm)という単位で表され、1ナノメートルは0.001マイクロメートル(μm)、つまり100万分の1ミリメートルです。
 
グラフは、太陽光を波長別に相対エネルギー(最大を1とした比率)で示したものです。人間の目が感知できる波長の範囲は約400~760ナノメートルであり、この範囲の光を「可視光」と呼びます。これより短い波長の光は「紫外線」、長い波長の光は「赤外線」と呼ばれます。可視光の各波長は、それぞれ特定の色に対応しており、その関係を右下の図に示しました。なお、魚の見える波長の範囲は、人間と比べて長波長側はほぼ同じですが、短波長側、すなわち紫外線領域まで見ることができるとされています。
 

 
さて、色彩感覚の話に戻ります。魚は色をあまり識別できない、いわゆる「色盲」であるという説もありますが、すべての魚に当てはまるわけではないようです。特にコイ科の魚は、人間に近い色彩感覚を持っていると考えられています。その他にも、ブラックバス、ニジマス、ヤマメ、スズキ、ブルーギル、ボラ、ハゼなども、色の識別能力が高いことがわかっています。コイ科の中でも、鯉、フナ、ハヤは特に色の識別に優れているようです。
 

 
ここで、ひとつ興味深い実験例をご紹介します。あらかじめ、さまざまな色のスクリーンを通して均等に餌付けを行い、その後、餌を与えずにスクリーンだけを発色させてみるという実験です。その結果、最も魚が近づいたのは「青+緑」の色であり、逆に最も敬遠されたのは「赤」だったとのことです。これは条件反射を利用した実験ですが、赤が魚にとって警戒色である可能性を示唆しているのかもしれません。
 
鯉が人間に近い色彩感覚を持っていることはすでに述べましたが、人間にとっても赤は信号機などに使われる警告色です。鯉釣りの際に赤い仕掛けを使うことは、他の色に比べて何らかの影響を与える可能性が高いと考えておくのが賢明かもしれません。
 


参考文献
1)『釣りの科学』 森秀人 講談社
2)『目から鱗の落ちる話』 末広恭雄 柏書房
3)『魚との知恵比べ』 川村軍蔵 成山堂書店