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釣りの研究室
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世界の分布

初版 2005.11.27

《要約》

  • 鯉の原産地は中央アジア説と東ヨーロッパ説があり、いずれもユーラシア大陸とされる。
  • 日本では1500万年前の化石が見つかっており、人が持ち込む前から存在していた可能性がある。
  • ヨーロッパには紀元前に伝わり、ドイツ鯉は18世紀オーストリアで改良が始まり、日本へは明治に渡来。
  • 東南アジアや北米へは人の手で移植され、チベットには独自進化した鱗のない「裸鯉」が生息している。

鯉の原産地

鯉は、オーストラリア大陸と南アメリカ大陸を除く、ほぼ全世界に分布している魚です。その原産地については、現代でも明確にはわかっていませんが、主に2つの説があります。ひとつは中央アジア原産説、もうひとつはドナウ川下流域(東ヨーロッパ)原産説です。どちらにせよ、ユーラシア大陸が鯉の起源地であることは、ほぼ間違いないと考えられています。
 

鯉の原産地 (説) と世界の分布

 

日本における鯉の歴史

私たち日本人にとって、鯉は昔から身近な魚です。では、鯉はいつごろから日本に住んでいたのでしょうか?
かつては「中国大陸から人が持ち込んだ」とされていましたが、その説を覆す発見がありました。なんと、およそ1,500万年前に形成された壱岐島の地層から鯉の化石が見つかったのです。現代の鯉とは種類が異なるようですが、これが国内最古の鯉の存在証拠とされています。
その後、数万年前の氷期、日本列島が大陸と地続きだった時代に大陸系の鯉が移り住んだとも考えられています。また、縄文時代の貝塚(約3,000〜4,000年前)からは、鯉の骨も出土しています。日本における鯉の歴史は、私たちが想像している以上に古いのです。
 

ヨーロッパへの伝播

ヨーロッパの鯉は、自然に分布していったのではなく、人の手によって広められたとされています。
最古の記録は、紀元前300年にギリシャの哲学者・アリストテレスによるもので、鯉についての記述があります。一方、イギリスでの最初の文献記録は、1496年にD.J.バーナーによって書かれたものです。つまり、ギリシャと比べると約1,000年以上遅れてイギリスに伝わったことになります。
有名な釣りの古典『釣魚大全』には、次のような一節があります。
「イギリスにおいて最も鯉の多い州はサセックスで、そこに住むマスカルという人物が移入したと伝えられている。」
 

ドイツ鯉の起源

ヨーロッパの鯉と聞いて、日本人が思い浮かべるのは「ドイツ鯉」ではないでしょうか。この名前から、ドイツで品種改良が始まったと考えがちですが、実は改良の出発点はオーストリアでした。最初の品種改良は1782年にオーストリアで行われ、その後20世紀初頭にドイツで改良が進められて、現在のドイツ鯉の原型となりました。日本には明治時代にドイツから移入されたため、「ドイツ鯉」という名が付いたようです。
 

東南アジアへの移植

もともと鯉は、ヒマラヤ以南の東南アジアには生息していませんでした。しかし、後に人の手によって各地へ移植されていきます。
たとえばインドネシアには、今から200〜300年前に中国からの移民が持ち込んだとされています。またフィリピンでは1912年、台湾から鯉が移植されたという記録が残っています。
 

チベットの「裸鯉」

東アジアの高地、チベット高原に生息する鯉は、少し特徴が異なります。この地域にいるのは「ギムノキプリヌス」という種類で、学名の意味は「裸鯉」。名前の通り、鱗がなく、体は細長いのが特徴です。
鱗のない点ではドイツ鯉と共通していますが、体型は在来の真鯉に近く、起源ははっきりしていません。ヨーロッパから伝わった品種改良型がこの地に根付いたのか、あるいは独自に進化したものなのか・・・その真相は今も解明されていません。
 

北アメリカへの移入

北米へ鯉が移入されたのは、意外にも遅く、1877年に成功したという記録があります。ヨーロッパでの長い歴史を考えると、北米への導入はかなり後になってからのことでした。
 


参考文献
1)鈴木克美 『魚は夢を見ているか』 丸善
2)上野輝彌・坂本一男 『日本の魚』 中公新書
3)芳賀故城 『コイの釣り方』 金園社
4)加福竹一郎 『魚の社会学』 共立出版
5)アイザック・ウォルトン(訳:森秀人)『完訳 釣魚大全』 角川書店
6)川那部浩哉・水野信彦 『川と湖の魚①』 保育社