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ドラグ調整

初版 2009.11.22

リールの性能を論じる際、ドラグ性能は非常に重要な要素の一つです。しかしながら、この肝心な機能について、インターネットや書籍を探しても、意外なほど詳しい解説に出会うことは少ないものです。
 
そこで今回は、Ambassadeur 7000 に搭載されたドラグメカニズムを例に、その仕組みを少し掘り下げてご紹介してみたいと思います。なお、ベイトキャスティングリールのドラグ機構は、メーカーによって細部に違いはあれど、基本的な構造はほぼ共通しており、主にドラグワッシャの材質や枚数が異なる程度です。
 

ドラグの基本構造

ABU Ambassadeur7000のドラグ機構

 
まずは上の図をご覧ください。ドラグとは、一言でいえば「ハンドルの回転に対するメインギヤの滑り具合」を調整する機構です。そのために、メインギヤは両側から「ドラグワッシャ」と呼ばれる摩擦板で挟み込まれています。
 
このドラグワッシャは、摩擦係数が比較的高い素材でできており、この機種の場合は、繊維を樹脂で固めたものが使われています。実際に手で触れてみると、ややざらついた感触があります。
 

フリクションワッシャとの関係

メインギヤブッシング

メインギヤ

左:ドラグワッシャ 右:フリクションワッシャ

ドラグブッシング

スターホイール

ハンドルナットとルッキングワッシャ

メインギヤの両側に配置されたドラグワッシャに加えて、さらに2枚のドラグワッシャが用いられており、それらの間には「フリクションワッシャ(金属板)」が挟まれています。このフリクションワッシャとドラグワッシャ、そしてメインギヤとの間で生じる摩擦が、最終的なドラグ力を生み出します。
それぞれのパーツの写真を掲載しましたので、先のイラストとあわせてご覧いただくと、構造がより明確になるかと思います。
 

スプリングワッシャ(皿バネ)の役割

 

ABU Ambassadeur7000のドラグメカニズム(断面図)

 
次に、断面図を使ってドラグ機構の動作についてご説明します。
スターホイールを締め込むと、ドラグブッシングが左方向に押し出され、スプリングワッシャを圧縮します。この皿バネは、正式には「Disc spring washer」と呼ばれ、日本語では「皿バネ」と訳されています。名前の通り、中央がくぼんだお皿状の形をしており、コイルスプリングに比べて非常にコンパクトに機能を持たせることができます。リールのような限られたスペースに収めるには最適な部品です。
 
皿バネによって押し込まれたフリクションワッシャ(2)は、メインギヤブッシングに対して軸方向に自由に動く一方で、回転方向は拘束されており、ブッシングとともに回転します。一方、フリクションワッシャ(1)はメインギヤの凹部にはまり込み、こちらも回転方向は一体で動く構造になっています。
 
これら2枚のフリクションワッシャの間に、4枚のドラグワッシャが挟まれ、ドラグ力が発生します。ドラグワッシャは両面が摩擦面になりますので、合計で8面の摩擦面が存在することになります。
 
摩擦によって発生するドラグ力は、皿バネによる押し付け力(P)、摩擦係数(μ)、そして摩擦面数の掛け算で決まります。つまり、枚数が多いほど平均的な摩擦力が安定し、滑らかで微調整の利くドラグ性能につながるというわけです。当然、構造が複雑になればコストも上がります。
 

組み込む向きよるドラグ特性の変化

ここでもう一度、スプリングワッシャ(皿バネ)について触れておきましょう。
 

二種類の皿バネを対向(直列)させている

 
写真に写っている小さなワッシャ2枚がそれにあたります。皿同士を向かい合わせて(直列)使うことで、わずかな押し込みに対して緩やかなドラグ力の変化を得られるのが特徴です。
 

皿バネの使い方による特性の違い

 
グラフに示したとおり、皿バネを同じ向きで重ねる(並列)と、同じつぶれ量に対して2倍の荷重が発生します。一方、向かい合わせに配置する(直列)と、荷重は半分となり、微細な調整が可能になります。
スターホイールを少し回しただけでドラグ力が大きく変化してしまう原因の一つが、皿バネを組み込む向きの間違いです。メンテナンスの際には、この点に十分注意が必要です。
 

Ambassadeur 7000 ならではの設計

なお、ここまでの説明では便宜上「同じ形状の皿バネを直列・並列にした場合」として話を進めてまいりました。しかし実際の Ambassadeur 7000 では、板厚や外径などが異なる2種類が使われており、それぞれの特性を活かして、独自のドラグ特製を実現しています。
機会があれば、こうした部品特性を数値化して検証してみたいところですが、今回はここまでとさせていただきます。