春を待つ、釣友の新しい暮らし
二月も下旬となり、空気の中にほのかな春の気配が漂いはじめた頃、私は友人・並継こぶちゃんの新居を初めて訪ねました。昨年末、都内から茨城へ移住したと聞いていましたが、ようやくその住まいを訪ねる機会を得たのです。
こぶちゃんの家は、霞ヶ浦にほど近い、小高い場所にあります。車で近くまで行くと、作務衣姿のこぶちゃんが外で待っていてくれました。以前から和の暮らしに憧れていた彼ですが、その装いは実に板につき、静かな周囲の景色によく馴染んで見えます。
庭には今回植えた梅の木が二本あり、一本は紅いつぼみをふくらませ、もう一本は白い花をほころばせています。
やがて玄関の戸が開き、奥様のやすこさんが笑顔で迎えてくださいました。釣り場でお会いして以来、数年ぶりの再会です。
玄関に入ると、右手の壁には大きな写真が三枚飾られていました。横たわる巨大なアオウオの後ろにしゃがみ、その圧倒的な存在感を引き立てるように微笑むこぶちゃんの姿です。ファインダー越しに見たあの日の水辺の光や風までが、一枚一枚の光景とともに鮮やかに甦ります。
縁側の鉄瓶
玄関を上がり、和室に通されると、新しい畳が敷かれた落ち着いた空間が広がっていました。庭に面した大きな掃き出し窓からは、こぶちゃんのキャンピングカーや梅の木、そして鯉を飼育している巨大な水槽までもが見渡せます。和室と窓の間には板張りの縁側(内縁)があり、そこには火鉢にかけられた鉄瓶がことことと微かな湯気を立てています。やわらかな陽差しが差し込み、穏やかな午後の時間が流れています。
座布団に腰を下ろし、初めて迎えた茨城の冬の話などを聞きながら、私は持参した茶道具を取り出しました。本日用意したのは鹿児島の抹茶です。爽やかで、すっきりとした後味が心地よい一服です。
火鉢から下ろした鉄瓶の湯を注ぎ、茶筅を素早く振ると、抹茶はみるみるうちにきめ細やかな泡を立てます。茶筅の音を聞く静かな時間もまた、贅沢なものです。やがてやすこさんが羊羹を切り分けてくださり、甘味とともにお茶を差し上げました。
午後の一服
床の間には、こぶちゃんこだわりの一輪挿しが置かれ、古風な座敷机が部屋の趣を引き締めています。日本文学の巨匠の書斎を思わせるような、日常の雑音を忘れさせる空気が流れていました。
「釣り場から、ご飯を食べに家に帰れるね」と私が言うと、
「お風呂にも入っていけるよ」とこぶちゃん。
「センサーも入るんじゃない?」
「いや、さすがにそれはないよ」と、笑い声が重なります。
茶の時間のぬくもり
時間を忘れて語らい、気がつけば予定を大きく過ぎていました。帰り際には地元の手土産まで持たせてくださり、あたたかな気持ちのまま家路につきました。
釣り場で竿を並べる時間も格別ですが、こうして暮らしの場で静かな茶のひとときをともにするのも、また心に残るものです。
あたたかくなれば、また大物との出会いを夢見て、湖畔に立つ日が来るでしょう。春はもうすぐそこまで来ています。
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