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浮島の遷り変わり

2025.9.7

霞ヶ浦の巨鯉釣り最盛期の名所のひとつに「和田岬」があります。この一帯は稲敷市浮島と呼ばれる地域で、水郷のベテラン・カープアングラーなら誰でも知っている場所です。今日は、その「浮島の遷り変わり」について少し触れてみたいと思います。
 
和田公園では、毎年春になると色鮮やかなチューリップが咲き誇ります。その入り口には味のある看板が立っており、訪れる人を迎えてくれます。「浮島」という地名から「昔は島だったのだろう」と漠然と思っていただけでしたが、あらためて調べてみました。
 

水郷筑波国定公園 浮島 厚生省茨城県

 

浮島の歴史と干拓

「浮島」の名が記録に登場するのは、奈良時代の初期(713年)に編纂された「常陸国風土記」に遡ります(関連記事参照)。近代においては1889年(明治22年)の町村制施行により、信太郡浮島村が発足しました。1885年当時の地図を見ると、その名の通り霞ヶ浦に浮かぶ島として描かれています。

 

《出典》茨城県「第2回 霞ヶ浦の風土と文化」浮島地区周辺(明治18年)

 
現在の地図を見比べると、当時の浮島は、西は西の洲岬から東は妙岐ノ鼻まで広がり、中央に和田岬が突き出しているのがわかります。霞ヶ浦周辺では各地で干拓が行われましたが、この浮島と、その東に続く本新島(もとしんしま)一帯では特に大規模な干拓が実施されました。

 

Google 浮島周辺のマップを使用して作成

 

浮島周辺の干拓
• 1927〜1948年 甘田入 干拓面積135ha
• 1932〜1952年 野田奈川 干拓面積170ha
• 1960〜1966年 西の洲 干拓面積165ha
合計すると470ha。東京ドーム(約4.7ha)の実に100個分にあたります。
 
本新島の干拓
さらにその東の本新島では、
• 1947〜1963年 干拓面積567ha
こちらは東京ドーム約120個分の規模でした。この干拓により、妙岐ノ鼻の先端と本新島がぐっと近づくことになりました。

 

高度成長期と「夢の浮島」

1950年代後半から1960年代は高度成長期の真っ只中でした。当時の浮島の一面を伝える資料が残っていますので、写真をご紹介します。

 

1962年 浮島水泳場《出典》目で見るふるさと霞ヶ浦

 

1963年 浮島水泳場《出典》目で見るふるさと霞ヶ浦

 

1962年 水郷汽船の定期便で土浦から「夢の浮島」の玄関口へ 到着《出典》目で見るふるさと霞ヶ浦

 

浮島には今も砂浜の名残を一部で見ることができますが、当時の水質は現在よりも格段によく、夏には水泳場として賑わっていました。まだ自家用車が普及していなかったこの時代、水郷汽船に乗って「夢の浮島」と呼ばれた水泳場へと多くの人が訪れたといいます。
 
しかし1960年代後半に入ると水質の悪化が急速に進み、霞ヶ浦の水泳場は次々と閉鎖。代わりに学校でのプール建設が広まっていきました。
 

霞ヶ浦の水質汚濁

《出典》湖辺の風土と人間—霞ヶ浦
浮島の話題から霞ヶ浦流域全体の話題に広がってしまいますが、浮島の水泳場閉鎖の背景として「水質汚濁」の件は避けて通れないので、お話ししたいと思います。
 
水質汚濁の主な原因を以下に示します。

  • 霞ヶ浦流域への企業群・事業所の進出に伴う排水量の増加
  • 霞ヶ浦流域の人口増加に伴う生活系雑排水量の増加
  • 農業用排水による汚濁

 
また、霞ヶ浦の水質汚濁を内面から進行させた原因のひとつとして、水産養殖業の進展が考えられます。霞ヶ浦という自然に依拠した形で長い間続いた内水面漁業に、鯉養殖という新たな生産手段が導入されました。鯉養殖は、餌を投入するために食べ残しがあり、これと鯉の排泄物が霞ヶ浦の富栄養化を促進させたものと考えられます。
 
霞ヶ浦流域において産業が活発化した時代背景も示しておきます。

  • 1960年4月 茨城県は工場誘致条例施行規則を制定
  • 1960年10月 同県は養豚造成促進事業実施要綱を制定
  • 1961年9月 鹿島臨海工業地帯造成計画が策定される
  • 1963年4月 鹿島港が重要港湾の指定を受ける
  • 1963年5月 利根川からの洪水の逆流と塩分遡上の防止を目的とする常陸川水門が完成

 
現在では、生活排水や工業排水の流入はかつてより改善されたと聞きます。それでも、水泳場があった頃の澄んだ水は二度と戻ってはきません。水郷で釣りを楽しませてもらっている一人として、引き続き環境を大切にする心を持ち続けたいと感じています。
 

現在の浮島

 

野鳥観察が盛んな浮島湿原

 
浮島の蓮田では、名産の「浮島れんこん」が一面に広がり、秋の収穫期には活気ある風景が見られます。周囲には湿原やヨシ原が残され、妙岐ノ鼻を中心に野鳥観察の楽しみも尽きません。サギ類やシギ類などの鳥たちに出会うと、自然の豊かさを実感します。農の恵みと水辺の自然が隣り合わせにあるのが浮島の魅力です。さらに浮島デイキャンプ場は2025年3月に公園再整備工事が完了し、4月より利用が再開されています。


 
参考文献

関連記事景行天皇と茨城県稲敷市浮島
参考サイト浮島デイキャンプ場