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釣りの研究室
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鯉の料理

初版 2005.11.27|改版 2026.1.4

《要約》

  • 昔は家庭でも鯉を食べることが多かったが、今では専門店でしかあまり見かけない。
  • あらい、鯉こく、うま煮、たたきなど、調理法によって味や食感が大きく異なる。
  • 中国やドイツ、フランスでも鯉料理があり、それぞれ独自の味つけがされている。
  • 生きた鯉を使う中国の料理や、動く切り身を見た幼い頃の記憶が印象に残っている。

が子どもの頃、鯉料理は今よりずっと身近な存在でした。日常の食卓に上ることも珍しくなく、地域によっては祝い事や来客時のご馳走としても重宝されていたものです。しかし現代では、鯉を口にする機会はずいぶんと限られてしまいました。それでも川魚料理を専門とする店などでは、今なお鯉料理が提供されており、自身もそうしたお店でいくつかの料理を味わったことがあります。
 
ここでは、国内外の鯉料理について、いくつかご紹介してみたいと思います。
 

鯉のあらい

よく「刺し身」と混同されることがありますが、まったく別の調理法です。鯉の身を薄く切って、さっと湯通ししたあと、すぐに冷水で締めます。そのため、食感はややコリコリとした独特のものになります。清涼感のある夏向きの料理です。
 

鯉のあらい

 

鯉こく

鯉の切り身を煮込み、味噌で味つけした汁物で、砂糖を隠し味に加えるのが一般的です。川魚特有のにおいが気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、味噌のおかげで非常に食べやすく仕上がります。母方の実家では鯉の養殖をしており、祖母がこの「鯉こく」をよく作ってくれたのを思い出します。素朴で温かい味でした。
 

鯉こく

 

鯉のうま煮

父方の祖母は「甘煮(あまに)」と呼んでおりました。鯉の切り身を砂糖、醤油、みりんなどでじっくりと煮て、照りを出します。やや濃いめの甘さで仕上げることで、臭みも抑えられ、子どもでも食べやすい一品になります。自身、鯉料理のなかではこの「うま煮」を最も多く食べた記憶があります。
 

鯉のうま煮(甘煮)

 

鯉のたたき

鯉の身を細かく刻み、味噌やねぎなどを加えて練った料理です。生のまま食べるため、少々クセがあり、生臭さも残りますが、好きな方にはたまらない風味かもしれません。は若い頃に一度口にしましたが、好みが分かれる料理という印象です。
 
そのほかにも、甘露煮、塩焼きなど、鯉の持ち味を生かした料理は多くあります。もし興味をお持ちでしたら、一度お試しいただくのも一興かと思います。
 

海外の鯉料理

さて、視点を海外に移してみましょう。
中国では、鯉を丸揚げにして甘酢あんをかける「糖醋鯉魚(タンツウリイユイ)」という料理があります。甘酸っぱいあんが鯉の身とよく合い、日本人の口にも合う味です。ドイツでは、香味野菜とともに鯉を煮込む料理があり、またフランスではビールで煮る「鯉のビール煮」などもあるようです。鯉という魚が、各国でさまざまに料理されているのは興味深いことです。
 
最後に、中国での鯉料理にまつわる興味深い一節を、矢口高雄氏の作品からご紹介します。
釣りキチ三平 中国を行く」 矢口高雄 講談社 p78-79 より引用


昼食は湖畔のレストランであったが、ここで特筆すべきは中国式鯉の生き造りであった。コックが生きた鯉の頭に、無造作にタオルを巻きつけ、目の下のあたりを軽くつかみながら、ゴリゴリとウロコをはぎ取り切れめを入れた。そして次の瞬間サッとそれを持ち、グラグラに煮えたぎった油の鍋に、尻尾の方からつっこんだ。一同あぜん!!コックはさらに杓子で油をすくい、裏に表にかけた。この間十数秒。あとは大皿にのせ、醤油仕立てのアンをかけてできあがり。タオルの目隠しをはずされた頭部は、いうまでもなく生きているというわけだが、びっくりしたのか失神したのかぴくりとも動かない。
「二十五分すれば目を覚ます」とコックは笑った。案の定テーブルに運ばれた鯉はピタリ二十五分で目を覚まし、盛んに口をパクパク。同時にボクの口も、開いたままふさがらない。いやそればかりか正直なところ箸もでなかった。この料理のできるコックは無錫にも二人くらいしかいないらしいが、中国の生き造りと日本の生き造りとどっちが残酷かの話題になった。だが結論は、中国側も日本側もお互いゆずらず平行線であった。


 

私の記憶

この話を読んで、は幼い頃の記憶がふと蘇りました。祖母が一匹の鯉を買ってきて、甘煮を作ろうとした時のことです。まな板の上で切られた鯉の切り身が、まだピクピクと動いているのを見て、子ども心に強い印象を受けたのを覚えています。当時は残酷さを感じるよりも、「生きている」ということの不思議さに心を奪われ、しばらくその様子を食い入るように見つめていました。あの光景は、今でも忘れることができません。
 


参考文献
1)「魚料理のサイエンス」 成瀬宇平 新潮社
2)「釣りキチ三平 中国を行く」 矢口高雄 講談社