産卵と孵化
《要約》
- 鯉は5~6月頃、水温18〜26℃の浅場で複数回に分けて産卵する「分割産卵型」で、草や流木に20万~30万粒もの卵を産みつける。
- 産卵期は早朝に鯉の産卵行動が見られ、釣り人としてはそっと見守る姿勢が大切。
- 水生植物、特にアシは産卵場所として重要で、水質浄化にも役立つため、再生が進められている。
- 孵化は水温により2〜12日で始まり、20〜25日後には体長1cmほどに成長。
魚の産卵行動には、大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは、お腹の中にある卵を一度にすべて産みきってしまう「一括産卵型」、もうひとつは、数回に分けて卵を産む「分割産卵型」です。鯉は後者で、産卵期には複数回にわけて産卵を行います。
産卵期は地域によって多少の違いがありますが、平野部ではおおよそ5月から6月にかけて、山あいの湖などではこれより少し遅れて始まるようです。その時期の目安としては、各地の漁業協同組合などが定めている「鯉の禁漁期間」が、まさに産卵の最盛期にあたります。
産卵は水温が18℃から26℃の範囲で活発になりますが、17℃以下や28℃以上になると、産卵は見られなくなるとされています。
産卵の場所と様子
産卵場所は、水深の浅い「浅場」です。ときには「鯉の甲羅干し」などと呼ばれるほど浅いところまで入り込み、アシやマコモなどの水生植物に卵を産みつけます。それ以外にも、流木や岸辺の木の根などが産卵場所になることもあります。
卵の数は鯉の大きさにもよりますが、体重2〜3kgほどの個体で20万〜30万粒にものぼるとされています。卵の表面は粘液で覆われていて、水草などにしっかりとくっつくようになっています。
地元の川で見かける光景
私の地元、栃木県の川でも、産卵期の早朝に川原へ出かけると、草むらのあたりで鯉がバシャバシャと産卵している光景に出会うことがあります。普段はなかなか近づけない鯉たちが、驚くほど身近な場所で命をつないでいる姿に、毎年のことながら心を打たれます。
そんな時はそっと離れた場所に竿を出すようにしています。産卵や出産というのは、どの生き物にとっても神聖な営みだと思っています。釣り人としても、そっと見守ってあげたいものです。
水生植物の大切さ
こうしてみますと、水生植物は鯉をはじめとする魚たちの産卵に欠かせない存在です。特にアシは、産卵場所になるだけでなく、水質浄化の面でも重要な役割を担っています。
霞ヶ浦や北浦の水郷地帯では、かつて豊富だったアシ原が減ってしまいましたが、今では少しずつ人工的に植栽され、再生への取り組みが進められています。
以前テレビで、琵琶湖の広大なアシ原に、大鯉の群れが産卵している様子を見たことがあります。その美しい光景が、いつかまた霞ヶ浦や北浦にも戻ってくることを願ってやみません。湖岸がコンクリート護岸に覆われた今の水郷地帯にも、再び自然の恵みがあふれる日が来ることを祈っています。
孵化と成長の過程
産卵が終わると、水温が20℃前後であれば、およそ4〜6日で孵化が始まります。文献によって多少日数が異なっているのは、水温によって発育のスピードが変わるためです。たとえば、水温が30℃では2日、14℃ではおよそ12日かかるといわれています。
孵化後20〜25日ほどで体長1cmほどに育ち、その後の成長は鯉の種類や水温、エサの環境などによって大きく異なります。
地元の川では、数センチほどの小さな鯉が群れをつくって泳いでいる姿を見ることがあります。その姿はなんとも微笑ましく、「どうか元気に育ってほしい」と願わずにはいられません。
《参考文献》
1)『魚の生活』 末広恭雄 ベースボールマガジン社
2)『川の魚』 末広恭雄 ベースボールマガジン社
3)『コイの釣り方』 芳賀故城 金園社
4)山田 勲『図解早わかり 野ゴイづり入門』西東社
5)『魚の社会学』 加福竹一郎 共立出版
6)『川と湖の魚①』 川那部浩哉・水野信彦 保育社