<< PREV  |  MENU  |  NEXT >>
プチサイエンス / 第7科学館:釣りバリの科学(3)

このページでは、釣りバリの一般的な製造工程の解説と、その中のいくつかの工程についての詳細な解説をしていきます。まずは製造工程からです。
 

1.線材切断

ハリの素材である鋼線を所定の長さに切断します。素材は特製のばらつきを小さくおさえ、品質が安定した調質高炭素鋼線が用いられます。
 

2.焼きならし

線材にする工程で生じた内部のひずみや応力を少なくする、いわゆる材料の初期化熱処理です。線材の段階で焼きならしをしている物もあります。
 

3.矯正

線材の曲がりを矯正し、一旦まっすぐにします。これは次の工程をしやすくするために行うものです。
 

4.尖頭

まっすぐな鋼線を並べ、先端に針先を形成するように砥石で研削加工します。針先加工はこの工程が一次加工で、後工程でさらに鋭くします。
 

5.成型

ハリの形状に曲げると同時に、カエシを付ける工程です。曲げ形状は押しつける金属の型で決まります。平打ち加工もこの工程で実施されます。
 

6.尻付け

チモトのプレス加工や、環付きであれば曲げ加工を行ないます。この工程で、外観上は釣りバリの形になります。
 

7.焼き入れ

750~900℃の炉の中にハリを入れて加熱します。炉から取り出した後、水や油に入れて急冷することで硬度を上げます。
 

8.焼き入れ

焼き入れだけでは硬度は高い一方で、極端に脆い性質となります。約400℃に加熱後、炉の中でゆっくり冷却すると折れにくくなります。
 

9.酸洗い

ハリの表面の酸化物や汚れを奇麗に除去し、メッキなどの表面処理の密着性をよくするために、酸性液を用いて表面を少しだけ融かします。
 

10.研磨

針先の仕上げ研磨をします。この工程がハリ先の切れのポイントとなります。メーカーにより異なりますが、水や研磨剤による研磨が一般的です。
 

11.メッキまたは塗装

ハリが錆びないようにメッキや塗装をします。魚種に応じてさまざまな着色がされますが、鯉用のハリは黒系統のメッキがほとんどです。
 

12.検査

外観検査などの最終検査などを経て、パッケージングし出荷されます。
 

炭素鋼の熱処理

第6科学館で解説したように、現代では釣りバリの素材として高炭素鋼を用いるのが一般的です。これは、焼き入れで高い硬度を得る目的で使用されています。ではなぜ炭素量と硬度が関係あるのでしょうか。実は炭素鋼の硬度は、主成分である鉄と炭素、その他の不純物の結晶構造により決まっています。
 
焼きならしとは、加熱後に徐々に冷却する処理方法です。この処理をすると、炭素鋼の結晶は均質となり、炭素は細かい粒状でまんべんなく一様に分布します(パーライト)。こうした結晶構造になると、ひずみがなくて比較的柔らかい、加工しやすい状態になります。一般的に、加工工程の前処理として行われます。
 
焼き入れは加熱後に一気に冷却する処理方法です。この処理をすると、炭素は鉄の結晶のすきまに入り込み、針のようにとげとげした結晶構造となります(マルテンサイト)。この炭素の状態を針状組織と呼びます。この結晶構造では、硬度が高く、脆い性質になります。
 
焼き戻しは低温加熱後に炉の中でゆっくりと冷却する熱処理方法です。この熱処理をすると結晶構造が微細化され(トルースタイト)、焼き入れ後のように炭素が偏って存在するようなことはありません。その結果、硬度は維持しながらも折れにくい、釣りバリに適した材質になります。焼き戻し処理は、焼き入れ後に行うことで初めてその効果が得られ、単独でこの処理を行なっても意味がありません。
 
製造工程では、焼きならし→焼き入れ→焼き戻しの三種類の熱処理工程が施されています。これは専門用語でいうと、パーライト→マルテンサイト→トルースタイトという状態に炭素鋼を順次コントロールしていることになり、炭素はそれぞれの状態において重要な役割を占めています。
 

メッキ、塗装

一般に釣りバリに使用されるメッキや塗装は種類が多いので、ここでは鯉釣りによく使用されるハリに絞って解説します。
NSブラック:つやのある黒色メッキです。NSとはニッケル(Ni)とスズ(Sn)の略です。
ブラック:黒色の焼き付け塗装で、NSブラックよりも光沢がありません。
ゴールド:金メッキです。チヌバリなどによく使われています。
シルバー:光沢のあるシルバーはニッケルメッキで、白と表記されることがあります。
 
最近の鯉用のハリは黒が多く使用されていますが、メーカーによりメッキの成分や下地処理などの違いから、色の濃淡や光沢の有無などの違いが若干あるようです。
 
メッキの場合、種類にもよりますが一般には数ミクロン以下のメッキ膜厚しかありません。非常に膜厚が薄いために研磨工程の後でメッキしてもハリ先の鋭さが損なわれません。しかし、ハリ先を研ぎ直すと、簡単にメッキ膜が剥がれますので、錆に弱くなってしまいます。以上のことから、一度研いだハリは頻繁に交換するか、あるいは頻繁に砥ぎ直して錆の進行を防ぐか、いずれかの方法を選ぶことが賢明です。

<< PREV  |  MENU  |  NEXT >>