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巨鯉館の玉網

私が愛用している玉網は数年前から何カ所も切れて穴が開き始めました。「修繕しないと…」と思いつつもそこからほつれることもありませんでしたのでそのまま使い続けていると、ついに枠の部分が切れ始めてしまいました。この玉網は巨鯉館で有名な埼玉県の銭屋さんでおよそ20年前に購入したものです。網を新品に付け替えるため久々に銭屋さんに行ってみることにしました。
 

2019年12月上旬の土曜日、銭屋さんに網の在庫と持ち込んだ枠に取り付けをすぐやってもらえるか確認の電話を入れたところ、「在庫は大丈夫ですが取り付けをできる人が今日はいないから預かりになります」とのことでした。宇都宮から行くのでできればその場でやって貰いたいとお願いしたところ、「明日の午前中ならその場で取り付けができます」とのことでした。「では明日の朝伺います」と伝えて電話を切りました。銭屋さんは通販にも対応してくれるので、実は網だけ購入して自分で付け替えることも考えました。費用的には当然その方が安くあがるわけですが、歳のせいか面倒なことが嫌になったことと、久々に巨鯉館に行ってみたいという思いからこうした展開となりました。
 
翌日の朝銭屋さんに到着すると、昨日電話で対応してくれたと思われる店長さんがレジで出迎えてくれました。早速一番奥の巨鯉館のコーナーで網を選んで付け替えをお願いしたところ、「枠がふたつなので1時間ほどかかってしまいますが大丈夫ですか?」「はい、他の商品を見て待っていますので大丈夫です」以前とは巨鯉館の品揃えが大きく変わり、半分がヨーピアンスタイルになっています。それでも利根川の近くのお店とあって、アオウオ釣りのために石鯛竿や山田製作所のピトン、大型玉網枠など通常の釣具店では置いていないものが展示されています。
 

そうした商品をひとつひとつ見ていると、年配の方が私の玉網を持ってバックヤードに入って行きました。若い店員さんに
「今の方は社長さんですか?」と尋ねると、
「いえ、会長です。今年の春に社長から会長になりました。それまでは毎日お店に出ていたのですが、今はそうではありません。」と丁寧に教えてくれました。
「網の付け替え作業を見せていただくことはできませんか?」と尋ねると、
「店長に聞いてみますのでお待ちください。」早速店長が
「狭いところですが良かったらこちらへどうぞ」とバックヤードに案内してくれました。
 

すでに古い網は取り外され、新品の取り付け作業が始まっています。大きな重りを乗せて網に一定のテンションをかけながら手際良く網針をくぐらせています。私が入っていくと、
「ああ、こちらへ」と会長。
「この重りは鉛ですか?」と尋ねると
「そうです。先代から引き継いだものです」
「会長は何代目なんですか?」
「釣具屋では5代目、ここには徳川の時代から住んでいて20代目くらいかなぁ」
「失礼ですが会長はおいくつですか?」
「78になります」
そう言いながらひと時も手を休めることなく、一定の速さで編んでいきます。
「昔はリールもない時代だったんですが、今はヨーロピアンスタイルなんて入ってきて、餌もあんなに種類が必要なんですかね。うちの若夫婦は今年ドイツに行って釣り具の展示会を見てきました。」
伝統的な釣り具にこだわらず、どんどん新しい釣り具も取り入れる気質は代々引き継がれているようです。
 

そんな話をしているうちにあっというまに張り替えが終わりました。最後に「会長と写真を撮らせてください」とお願いしたところ快く受けてくださり、店内にいらした常連さんに撮影をお願いしました。通販で身の回りのものはほとんど手に入る時代ですが、こうして直接お会いして目の前で編み込んでくださった玉網は愛着が湧き、これから長く水郷の釣りを楽しませてくれることでしょう。「やっぱりきて良かった」と思いながら自動車道を走る充実した日曜日でした。

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